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続報真相 「思いやり予算」増、なぜ? 「日本は米国の属国」説を考える
毎日新聞 2016年1月15日 東京夕刊
安倍晋三首相のスローガンといえば「日本を取り戻す」だが、安全保障や経済に関するその政策を見ていると「米国追従ではないのか」と疑問に思われるものが目につく。
日米関係のあり方は、戦後70年間、この国で議論され続けたテーマでもあるが、改めて考えたい。
日本はアメリカの「属国」か−−。
【小林祥晃】
外国人も驚きの厚遇/基地の提供「負担」のはずが「負い目」に
ある在日米国人男性が最近製作した映画が静かな話題となっている。
タイトルは「ザ・思いやり」。
日本が負担する在日米軍駐留経費、いわゆる「思いやり予算」について「なぜ日本はそこまでするのか」との素朴な疑問を投げかけるドキュメンタリーだ。
市民グループなどが各地で自主上映会を開いている。
この予算は1978年、金丸信防衛庁長官(当時)が「思いやりというものがあってもいい」と発言、基地従業員の人件費の一部62億円を負担したのが始まりだ。
その後、施設整備費や光熱水費なども加わり、現在は5年ごとに額を大きく見直している。
2011〜15年度は年平均1866億円を支出。
日本政府は昨年、16〜20年度分の減額を求めたが米側は受け入れず、逆に総額で130億円増の同1893億円で決着した。
映画では、基地内のリゾートマンションのような住宅から、学校、教会、ゴルフ場、銀行、ファストフード店に至るまで、米兵が快適に暮らすための数々の施設が日本の税金で整備されていると説明する。
そして、米カリフォルニアの街頭で「この事実、どう思う?」とインタビューを敢行。
「(在日米兵)1人当たり1500万円? ワオ!」
「国際開発に使え。その方がより平和的だ」。
問われた米国人やフランス人、インド人らは驚いたり、自分のことのように憤ったりする。
監督した英語講師のリラン・バクレーさんは、製作の動機をこう語る。
「米軍厚木基地(神奈川県)の近くに16年住んでいますが、数年前、米兵のぜいたくな生活のために日本の税金が使われていると知って驚いたんです。
東日本大震災の被災地には、隣家のくしゃみが聞こえるほど壁の薄い仮設住宅に住み、ストレスを抱えている被災者がいるのにどうして?
日本は米国の属国ではないのだから、この矛盾を考えてほしい」
駐留経費の負担については、1960年に発効した日米地位協定の24条で定められた。
日本が基地や施設用地の借地料を、米国は基地の維持費や作戦の経費を、それぞれ負担するとされ、日本に人件費や光熱水費の負担義務はなかった。
だが米国は財政赤字や世界的インフレを背景に一層の負担を要求。前述の「思いやり」発言につながっていく。
思いやり予算は当初、文字通り日本の自主判断で支払っていたが、91年度以降は、日米間で結ばれる「特別協定」に基づいて支払われる基地従業員の基本給や光熱水費が加わった。
96年度からは、訓練場所の移転費用についても特別協定に基づいて支払うことに。
琉球大の我部政明教授(国際政治学)は
「協定に基づく支出は、もはや思いやりでなく義務です」
と批判する。
日本が駐留米軍のために支出する経費は思いやり予算や借地料だけではない。
15年度予算では、他にも
(1)駐留関連経費(自治体に対する周辺対策費や漁業補償費など)の1826億円
(2)米軍再編関係経費(普天間飛行場の辺野古移転費用や米海兵隊グアム移転費用など)の1426億円
(3)日米特別行動委員会(SACO)関係費の46億円−−
などがあり、思いやり予算と借地料を合わせると総額は7000億円を超える。
日本の負担額は、米軍が駐留する国々の中でも突出している。
米国防総省が、同盟27カ国が02年に予算計上した「米軍駐留に対する支援額」を独自の基準で算出、比較したところ、
日本の「支援額」は44億1134万ドル(当時の為替レートで5381億円)でトップだった。
次いで、ドイツが15億6392万ドル
▽韓国が8億4311万ドル
▽イタリアが3億6655万ドル−−
と続く。
光熱水費を支払う国は日本だけだ。
我部教授は
「米国にとって日米同盟の最大のメリットは、自由に使える基地を提供してもらっていること。
それなのに日本は『米軍に守ってもらっている』という負い目を感じている」
と首をかしげる。
「多くの人が基地提供を『負担』と意識していないからでしょう。
沖縄にいれば、これほど重い負担はないと感じますが、
本土では当事者意識が薄いため『ただで守ってもらっている』と考えるのです」
「負い目」は安全保障政策全般に影響しているように見える。
例えば、昨年成立した安全保障関連法は集団的自衛権の行使という歴史的な政策転換だったが、
昨年4月に訪米した安倍首相は米国議会で「夏までに成立させる」と演説。
野党から「法案も提出していない段階で他国で約束するとは国民・国会無視だ」と批判が噴出した。
これらの安保政策は、米国の「要求」にぴたりと一致する。
それを示しているのが、12年に発表された「アーミテージ・ナイ報告書」だ。
「知日派」として知られるアーミテージ元米国務副長官、ハーバード大のジョセフ・ナイ氏らが中心となってまとめた。
報告書は「日本が一流国であり続けるため」として、
集団的自衛権行使に向けた憲法改正や
武器輸出三原則の撤廃、
特定秘密保護法の整備
が必要だと強調している。
安倍政権は集団的自衛権は言うに及ばず、
13年の特定秘密保護法の成立や、
14年の武器輸出を原則解禁する「防衛装備移転三原則」の閣議決定など
報告書に沿ったかのような政策を次々と実現している。
昨年11月には安倍首相がオバマ大統領との会談で、南シナ海での自衛隊活動を「検討する」と表明し、国内外で波紋を広げた。
この「南シナ海の警戒監視」も、実は同報告書が触れている内容だ。
また、安倍首相が集団的自衛権行使の具体例として挙げた「ホルムズ海峡での機雷除去」も、ここに含まれている。
しかも驚くのは、日本政府はここまで忠実に「要求」に応えたうえに、
昨年の秋の叙勲で、このアーミテージ氏に旭日大綬章を授与していることだ。
日本はお人よしが過ぎるのではないか−−。
そんな疑問を胸に、ジャーナリストの田原総一朗さんに会った。
「叙勲は米国に対するごますりですよ」と田原さんは一笑し、こう話した。
「戦後の日本人にとって『日本は米国に従属しているのか』『真に独立しているのか』なんて、どうでもいいこと。
それよりも最大の望みは『再び戦争に巻き込まれないこと』だった。
そのための口実が憲法9条だったわけだ」
歴代政権は米国との同盟を維持しつつ、いかにして米国の戦争に巻き込まれないようにするかに腐心した。
朝鮮戦争からイラク戦争まで、金を出したり「後方支援」をしたりしながらも、9条を盾にギリギリのところで武力行使は踏みとどまってきた。
「安倍さんは『憲法を改正し、安全保障で米国に協力して同盟を強めることが、日本の安全を強化する』と考えている。
一方、野党は『それは米国の戦争に巻き込まれるリスクを高める』と反対している。
今後、我々はどちらの道を進むのか。
それが今の日本の最大の論点であり、次の選挙で問われるべき争点です」
田原さんは、平和国家の立場を明確にする改憲なら反対ではないが、戦争のできる「普通の国」を志向する改憲には反対する。
安倍政権の目指す改憲は後者に近く「戦争に巻き込まれるリスクが高い」と考えている。
「本当は、国会で与野党がこの論点について徹底して議論しなければいけないのだけどね……」。
それこそが自立した国のありようだ、と言いたげだった。
軍事産業の「利益優先」に危機感
米国製の高価な防衛装備の購入も目立つ。
例えば、事故が相次いだ新型輸送機オスプレイ。
日本は18年度までに計17機を導入する計画で、16年度は4機分447億円が予算計上された。
1機当たり約112億円だが、これとは別に、操縦を学ぶための米国留学や技術支援費など関連費353億円がかかる。
これらを含めれば1機当たり200億円。
他にも購入が決まっている滞空型無人機グローバルホーク、戦闘機F35A、新早期警戒機E2Dなどは全て米国製だ。
米国社会に詳しいジャーナリストの堤未果さんは
「米政府の後ろには軍事産業や金融機関なども結びついた軍産複合体があります。
米国に限らず、現代の国家はグローバル企業の利益代表としての色合いを強めており、国民の利益は優先されていない」
と指摘する。
「見方を変えれば、アーミテージ氏なども単なる『代理人』。
私たちは誰が利益を得て、誰が犠牲になるのかを見抜く必要があります」
米国追従は果たして当然のことなのか。
安保関連法施行が近づく今こそ再考すべきだ。
「ザ・思いやり」の一場面。米ハリウッドで、バクレーさん(左)が日本の「思いやり予算」について説明すると、右のフランス人男性は言った。「そこまで思いやるならフォアグラを食わせればいい」
(当ブログのコメント)
思いやり予算を増したのは、日本を自力で戦争をできる国に変えていっている安倍政権が、アメリカを欺くために、安倍政権はアメリカに従属すると思わせるための小手先の戦術かもしれない。
やがては、アメリカを奇襲して(悲願の)戦争を始めるための一時期の「敵を欺く」戦術かもしれない。
岡田民主党代表の「改憲の緊急事態条項は政令で国民の権利を制限できるナチスへの道」という断言は正しい。
2016年01月16日
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