『立命館産業社会論集』第49巻第4号2014年3月
─在宅高齢者の食生活・介護・住居・労働問題を中心に─
朴 仁淑
今日,韓国の低所得層高齢者をめぐる諸施策は,家族扶養に隠されていた高齢者の貧困問題が,家族扶養の激減により社会問題として取り上げられ,その対応に追われているのが現状である。
本稿は,韓国の大都市における低所得層高齢者が遭遇する生活困難について,筆者が2012年に行った低所得層高齢者生活実態調査を通じて明らかにしようとする試みである。本稿では,生活困難の実像を把握するため,低所得層高齢者の生活を,食生活,健康と介護,住居,労働の側面から総合的に検討する。
加えて,韓国特有の借家慣行の変貌をはじめとする昨今の社会経済的変化がもたらした生活困難の現状を明らかにする。
調査の結果から,厳しい社会経済状況の中で,出自の問題や教育機会の不在による不安定な就労,家族関係の崩壊,貧困に連鎖する高齢者の生活問題が多く見られた。
さらに,近年加速化している借家慣行の変貌による家賃の新たな負担が,低所得層高齢者の生活困難を引きおこしていることが示された。
キーワード:
韓国,低所得層高齢者,生活困難,生活不安,チョンセ,借家慣行の変貌,高齢者就労支援事業,古紙収集
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(国際通貨基金(IMF)はこのほど、韓国に関する報告書で、 住宅を賃貸する場合に高額の賃貸保証金を貸し主に預ける代わりに家賃を設定しない 「伝貰(チョンセ)」と呼ばれる独特の制度が金融機関の構造的なリスク要因になり得ると警告を発した。 2014/02/11)
2.借家慣行の変貌と低所得層への賃貸住宅政策
(1)チョンセから月極への借家慣行の移行
まず,近年の借家慣行と関連する大きな変化は,賃貸契約方式がチョンセ契約から月貰(ウォルセ:月極の意味,以下「月極」)契約に転換していることである。現在,韓国における主な賃貸契約は,チョンセ,保証金付き月極,月極(保証金なし)があり,表2のような分布を見せている。チョンセは,毎月の家賃はなく,伝貰契約期間の終了で,チョンセ金は賃借人に返還される。チョンセは,住宅価格の上昇を予想し投資目的で住宅を購入する際,購入資金の不足分をチョンセ金により充てることで,所有主に好まれてきた。また,銀行金利が高かった時代に,不動産の所有主はチョンセ金を銀行に預け利子を得るという魅力ある手段だった。
一方,賃借人においても,入居時には多額のチョンセ金が必要になるが,退去時にチョンセ金が全額戻ってくること,なにより毎月の家賃が発生しないことから,好まれる慣行であった。法律(住宅賃貸借保護法)は,賃借人のチョンセ契約を保護することに集中している。
しかし,不動産景気の低迷と銀行金利が低くなるにつれ,チョンセが月極に転換してきたのである。
チョンセ物件の不足は,チョンセ住宅価格の高騰状況を招いている。2011年の全国住宅チョンセ価格は,前年に比べ12.3%上昇し,2001年以来最も高い上昇率を見せている(韓国鑑定院2012)。借家慣行の変貌は,今までは発生しなかった家賃の支出に加えて,特に低所得層の生活に深刻なしわ寄せをもたらしているのである。
韓国の高齢者向け病院で火災、21人が死亡=患者はベッドに縛られていたと目撃者(2014年5月29日)
(この事件の背景には、高齢者の、「ベッドに縛られているよりは、いっそのこと殺してくれ」という願望があったかもしれない)
韓国の高齢者向け病院で火災、21人が死亡=患者はベッドに縛られていたと目撃者(2014年5月29日)
(この事件の背景には、高齢者の、「ベッドに縛られているよりは、いっそのこと殺してくれ」という願望があったかもしれない)
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