2014年6月29日日曜日

Copy:「思想統制」から「教学錬成」へ

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陳情書の書き方(表現規制・2013年児童ポルノ禁止法改正案用)


以下の資料から、治安維持法の運用管理の本部であった思想局(後の教学局、前身は学生課)の運営の詳細がわかる。


「思想統制」から「教学錬成」へ
――文部省の治安機能――

荻野 富士夫

はじめに
目次


I 思想統制の始動-社会科学研究の抑圧(一九二八年以前)
1 「思想善導」の前史
2 高校社会科学研究会の抑圧-岡田良平文相の登場-
3 社会科学研究の全面的禁圧へ-京都学連事件とその後-
 

II 思想統制体制の確立-学生課から学生部へ
(一九二八年-一九二九年)
一 三・一五事件と学生課の設置
1 社研解散と「左傾教授」追放
2 為政者層の慫慂-枢密院・議会
3 学生課の新設
4 抑圧取締の強行と空回り
 

二 四・一六事件と学生部への拡充
1 学生課の学生部への拡充 ......23
2 思想善導の始動 ......25
 

III 思想統制体制の展開-学生部(一九二九年-一九三四年)

一 学生思想運動との全面的対決
1 学連解体後の抑圧取締 ......30
2 学生思想問題調査委員会 ......33
3 思想善導の本格化
4 ストライキ・学内騒擾の沈静化へ
5 中学校・小学校教員・青少年団体への抑圧始動

二 学生思想運動の逼塞化 ......45
1 学生部=「教育警察」の本領 ......45
2 学生思想運動の封じ込めへ
3 「転向」学生の処遇
4 右翼学生運動への対応
 

三 「思想対策ノ確立」へ
1 国民精神文化研究所の設置 ......56
2 長野県二・四教員赤化事件 ......60
3 滝川事件 ......66
4 思想対策協議委員 ......69


IV 思想動員体制への転換-学生部を思想局に拡大(一九三四年-一九三七年)

一 「思想上ノ指導監督」施設としての思想局......74
1 文部省への逆風 ......74
2 学生部を思想局に拡大(創設)......76
二 思想局の対策と施設 ......82
1 学生思想運動への警戒の持続.....82
2 国民精神文化研究所の停滞 ......89
3 日本文化協会の創設.....94
4 地方思想問題研究会と国民精神文化講習所の設置 ......99
三 「国体明徴」と「教学刷新」......106
1「天皇機関説」問題への対応......106
2 教学刷新評議会の設置と答申 ......112
3 日本諸学振興委員会の創設 ......118
4 『国体の本義』の編纂......121
 

V 「教学錬成」体制への移行-教学局〈外局〉
(一九三七年-一九四一年)
一 「教学刷新ノ中央機関」としての教学局
1 思想局教学局へ拡大(創設) ......130
2 教学局の不振 ......133

3 文部行政の迷走 ......137
 

教学局の対策と施設......140
1 「教学局行政の積極化」 ......140
2 国民精神総動員運動と教学局
3 国民精神文化研究所の拡充
4 道府県思想対策研究会の設置
5 東京における錬成教育
6 日本文化中央連盟の創設
7 『臣民の道』の編纂......163
 

三 大学の思想統制・動員......167
1 学生思想運動の剔抉......167
2 修練体制の確立と学校教練の強化
3 興亜学生勤労報国隊
4 「国体学」「日本学」講座 ......182
5 河合栄治郎事件と大学粛学 ......186
 

四 「東亜教育」の推進へ
1 「東亜教育」への着目......193
2 「東亜教育基本理念」 ......196
3 華北占領地域における文教工作
4 朝鮮・台湾における「皇民錬成」
 

VI 「皇国民」錬成教育の究極化-教学局〈内局〉
(一九四二年-一九四五年)
一 「皇国民」錬成教育の完成へ......212
1 「大東亜建設ニ処スル文教政策」
2 戦時下学生思想指導の強化
3 戦時下「国民思想指導」の徹底
4 国民錬成所の創設と国民精神文化研究所の収束
5 教学局の内局移行
6 「東亜教育」の収束


二 「皇国民」錬成教育の末期段階
1 「文教維新」
2 思想対策の最終段階 ......243
3 教学錬成所の創立
4 「皇国民」錬成教育の崩壊


VII  文部省治安機能の復活-戦後教育への連続と断絶
(一九四五年以後)

一 「教学錬成」体制の「解体」 ......256
1 「国体護持」教育への固執 ......256
2 GHQ教育指令への消極的対応
3 「教育に於ける民主主義」の実施

4 学園民主化の抑制へ ......270
 

二 新たな教育統制へ ......276
1 学生運動抑圧の再開 ......276
2 「学生補導体制」の確立......283
3 旧教学局官僚の延命と復活 ......289



 はじめに
 戦後日本の教育改革が転機を迎えつつあった占領末期、日米の二つの編纂物が戦時下日本の教育のありようを次のように概括している。

まず、一九五一年刊のGHQ民間史料局編『日本占領のGHQ正史』第二〇巻「教育」(民間情報局)の「降伏前の状態」の一節
「文部省」の冒頭部分である(『GHQ日本占領史』第二〇巻)。


--------------
占領直前の数年間は公教育が優先的地位を享受し、文部大臣は内閣の中でも重要なポストの一つとみなされていた。同省は極度に中央集権化された教育制度の組織と指揮監督の責務を担うとともに、軍事教練、芸術、科学、文学、宗教、娯楽および青少年の活動と組織に関与していた。一九四四年にいたっては、一八〇〇万人以上の学生の生活に大きな影響を及ぼし、五〇万人の教師を指揮監督し、約二〇万人の僧職者を管理していた。その支配力はあらゆる村落にまで行きわたり、その影響力はあらゆる国民に及ぶものであった。同省はまた、軍国主義者や超国家主義者に支配され、その効果的な道具となった。彼らは同省を利用して思想統制を計り、軍国主義や超国家主義を国民に教化した。

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 さらに、本省の主役ともいうべき「教学局」について、

「教学局は自由主義的・左翼的思想を根絶させ、超国家主義的思想の教化の助長を司っていた。
同局は公教育の計画、学生および教師の思想の調査・統制、図書・雑誌の検閲、宗教組織や秘密結社の統制を通しての青少年や成人に対する教化を行い、超国家主義の教育と発展を推進した。
その影響力は学校制度を超えて図書館、ラジオ放送、博物館、その他の情報・レクリエーション機関まで及んだ」

と記述している。
 戦時下の教育統制が重大であったという認識は一般に定着
しているものの、文相を「内閣の中でも重要なポストの一つ」とみなす、このとらえ方は新鮮である。
 

 もう一つは、一九五〇年に教育刷新審議会から報告書として公刊された『教育改革の現状と問題』の「序論」の、戦時下の教育についての記述である。
「一貫してわが国民教育の大本」であった「教育勅語」の「基調をなすものは、皇室を中心とする日本国体観と、
これに基づく忠君愛国の国民の養成に在った」

として、
さらに次のようにつづける(『教育刷新委員会教育刷新審議会
会議録』第一三巻所収)。


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 この教育方針は、満州事変を経て、日華事変に入るに及んで、更に極端化され、戦争体制に即応せしめるために、一九三七年(昭和十二年)に設置された教育審議会の決議による、いわゆる「教学刷新」において、頂点に達した観がある。

これは、一に「皇国の道」を教育の基本とし、「皇国民の錬成」を目標とするということであった。
「小学校」の名称を改めて「国民学校」とし、あるいは文部省に「思想局 」や「国民精神文化研究所」を設置したのも、この時であった。
それは、学校教育についてのみでなく、一般の社会教育についても同様であって、わが国の教育は、まったく、極端な国家主義と軍国主義的色彩に塗りつぶされるに至った。
 今次の太平洋戦争は、実にかような教育精神によって錬成された国民と、米英の自由な国民との対決であったのである。
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 この戦前教育の「過誤」の痛烈な自覚から、戦後の「教育の根本改革と新たな再建」が導かれる。

一九五〇年前後は「逆コース」のなかで戦後「民主主義」教育の方向転換がなされつつある段階だが、GHQ民間情報局および教育刷新審議会ではそれぞれ戦時下の教育統制の実態を直視することから、戦後教育改革を総括しようとした。
それらは、戦後「民主主義」教育が、「日本国民と日本教育者が、過去数十年、その下で窒息させられていた弾圧と拘束」(『教育改革の現状と問題』)からの解放のうえに構築されたものであることを再認識させてくれる。

 二一世紀となった現在、さらに戦後「民主主義」教育が解体されようとしているとき、あらためて「日本国民と日本教育者が、過去数十年、その下で窒息させられていた弾圧と拘束」の実際を考えることは、意味のあることであろう。



 戦前日本の治安体制を強権的に保障する治安体制は、治安維持法を筆頭に各種の治安諸法令、警察・司法などの各治安機構、そして警察・検察・公判・行刑・保護という「思想犯罪」の一連の処理過程の具体的運用を構成要素とし、さらにそれらを統治目的・指針に応じて組立てる治安政策を推進力とする。

この治安体制は一方で相互補完的な重層構造をもちつつ、相互に競合的な関係にある。
 本書では、戦前治安体制の一翼・一環として文部省によって主導される「思想統制」から「教学錬成」への、大きな流れとその特質を明らかにすることを目的とする。
明治維新以降の国家による教育体制の構築が大日本帝国憲法下の「臣民」育成を目標としたことは、これまでの分厚い蓄積をもつ教育史研究によって明らかにされてきたことではあるが、一九三〇年代後半からの「臣民」はそれ以前と質を異にするものであった。

 マルクス主義が強権的に弾劾されるのと軌を一にして、個人主義・自由主義・民主主義なども欧米からの輸入物として一斉に排撃され、その対極に絶対的に拠るべきものとして「国体明徴」・日本精神があらゆる領域を覆いつくした。
その結果、「臣民」は「皇国民」として「教学錬成」に駆り立てられていったのである。
そして、「皇国民」は、朝鮮・台湾、「満洲国」、占領・傀儡政権下の中国、さらに軍政下の東南アジア各地域でも育成されねばならなかった。
それらでは日本国内以上に治安体制と「教学錬成」が密接不可分に結びつけられていた。
 戦争遂行体制を主体的に支える「皇国民」の育成は為政者層全体の総意思であったが、
その育成の具体的な企画者・執行者は主に文部省であった。

直接的には文部省外局の教学局があたるが、その前身は思想局、学生部、さらに学生課という学生思想運動の抑圧取締機構にさかのぼることができる。
すなわち一九三〇年前後の文部省の「思想統制」体制は、
三〇年代中葉の「思想動員」(国民精神総動員運動への関与)の段階を経て、三〇年代末には教育行政全体を「教学錬成」の段階に移行させていくのである。

しかも、思想局・教学局の時代においても、常に地表下から学生思想運動などが抉りだされ、その危険性・不逞性を振りまきつつ、「教学錬成」体制の完成に邁進した。

 おおよそ学生部創設による一九二〇年代末の思想統制確立の段階(I・II)までは概観にとどめ、

一九三〇年代以降に考察の重点を置く。

 IIIでは、学生部の機能が全開して学生運動と全面的に対決し、“教育警察”としての本領を発揮すること、
「思想善導」がさまざまな諸方策の模索から本格的な実施に進むこと、
そして中学校・小学校教員・青少年団への思想問題の広がりへの抑圧の始動、
国民精神文化研究所の設置などがポイントとなる。

学生運動の急展開・急拡大に追われながら強権的にそれらを押さえつけていく過程を概観するとともに、教育を「国体」観念・日本精神のもとで統制・動員していく萌芽を読みとる。


 IVでは、思想局(一九三四年~三七年)に焦点をあて、「思想統制」の段階から「思想動員」の体制へ移行する過程を追う。

思想悪化・教育悪化への危機感から内閣に設置された思想対策協議委員の答申を受けて、学生部は思想局に拡充された。
その機構と機能を概観したうえで、思想運動の逼塞化にはたした役割を具体的に明らかにする。
思想局では対象を狭義の学生思想運動から小学校教育、社会教育の領域にまで広げ、「思想統制」の密度と強度を高めるために、各県に地方国民精神文化講習所を設置し、思想問題専任の視学委員も増員した。

 VとVIでは、日中戦争全面化と軌を一にして発足した教学局(一九三七年~四五年)の解明が解題となる。

従来の督学官に代わる教学官により教育刷新を図り、「皇国民」教育の完成に突き進む。
しかし、外局として発足した教学局は、一九四三年には内局に縮小されてしまうことに示されるように、「教学錬成」体制の究極化は戦時下教育そのものの自壊の要因の一つとなったと推測される。こうした視点からのアプローチを試みたい。
 なお、文部省の教育行政は「思想動員」・「教学錬成」一辺倒になってしまったわけではなく、常に潜在的な学生運動にも警戒の目を向け、俳句サークルや読書会的な組織さえ戦争遂行体制への異物とみなすと、萌芽のうちに抉り出すという取締機能を持ちつづけていたことを再確認したい。

 さらに、あらゆる領域で「錬成」が第一義的目標となること、
「東亜教学体制」から「大東亜教学体制」への展開過程も視野におさめる。
マルクス主義の排撃が強権的な「思想統制」によって実現されていくのに並行して、一九三〇年代後半から、急速に個人主義・自由主義・民主主義を欧米の価値観・借り物とみなす大合唱がおこり、それらの排撃・掃討の対極に「国体明徴」・日本精神が位置づけられた。

 こうした潮流の醸成に大きく関わったのが、国民精神文化研究所であり、文部省であった。
設置当初は人文科学中心であった国民精神文化研究所は、度重なる機構拡充を経て、法学・政治学などの社会科学、芸術・自然科学の領域にまで進出するようになり、一九四二年には「時局ニ鑑ミ政治・経済ノ指導原理」の確立をめざすべきものとされた。
四三年には、「国体ノ本義」にもとづく国民の養成機関として設置された国民錬成所(四二年設置)と合体して、教学錬成所の設置となる。これらの機能や役割を解明する。

 VIIでは、戦後教育への断絶と連続の問題を考える。

戦前治安体制が戦後治安体制に連続継承していくのに照応して(もちろん「断絶」の意義も考えねばならないが)、戦前「教学錬成」体制の理念と人脈が戦後に継承連続していくことを明らかにしたい。
たとえば、群馬・長崎の特高課長と大阪府外事課長を勤めた田中義男は、思想局思想課長・教学局庶務部長として「教学錬成」への道筋をつけたのち、文部省の中枢を歩み、戦後の公職追放後に文部省にカムバックし、初等中等教育局長・文部次官となる。
文部行政における戦前と戦後の連続を示すこうした事例の意味を考える。
治安体制の一翼・一環として文部省の「思想統制」・「教学錬成」体制をとらえることにより、特高警察や思想検察とは異なる教育の場における抑圧統制の特性が浮かび上がるとともに、従来の教育史研究とは異なった観点からの戦時下教育・戦後教育の考察や、近年高まりつつまる植民地教育史研究とやや異なった視覚からの論点を提示できるだろう。
 憲法改正の論議と連動して、教育基本法改正の試みが現実化した今日、こうした観点からの考察が、あるべき教育の姿を論議するうえで、重要な問題提起となることを確信している。
 治安体制の一翼・一環として文部省の治安機能をとらえる研究は、これまでほとんどなされていない。

寺崎昌男・戦時下教育研究会編『総力戦体制と教育』は、やはり「教学錬成」をキー・ワードに戦時下教育の実態を多方面に、かつ詳細に分析して多くの示唆に富むが、それが「思想統制」体制の展開線上にあり、治安体制の一角を占めるという見方や「大東亜教学体制」への広がりをもったという視点は欠如している。
歴史学の領域においても、国体明徴運動や国民精神総動員運動への個別的な論究は多いものの、「教学錬成」体制全体への関心は薄い。
とりわけ、一九四〇年代の「皇国民」育成の具体相や戦後の教育統制へのつながりという点には、論じるべき点が多く残されている。

・・・
 Ⅲ 思想統制体制の展開
――学生部(一九二九年-一九三四年)


一 学生思想運動との全面的対決
1 学連解体後の抑圧取締
 学生部の創設前後にみられた学生思想運動の沈静化という楽観論は、すぐに修正を迫られた。

学生部の学生思想運動に対する現状認識の経過をみると、一九二九年一二月の第二回直轄学校学生生徒主事会議における田中隆三文相の訓示には、まだ学生思想運動転換の認識はみられない
(なお、この会議で「学生運動の最近の一傾向」を講演した警視庁特高課長上田誠一は、
「学生運動が校門を越えて街頭に進出して来ると云ふ傾向」などに注意を喚起していたが)。
・・・・
・・・・
 このような認識の転換を迫ったのは、学生思想運動そのものの急進化であった。
レーニン・デーなどの記念日や総選挙(三〇年二月)に際して、
「盛ンニ種々ノスローガンヲ連
ネタルビラヲ学内ノミナラズ工場地帯、兵営附近ソノ他ノ街頭ニ貼撒布シテ宣伝ニ努メ」
るなどの

街頭進出により検束者が続出し、
三〇年一月から三月末までの間に二九一名に達した
(『第五十九回帝国議会説明材料』〔三〇年一二月〕、国立教育政策研究所図書室「河村文庫」所収)。
さらに、二九年秋以降には、各地の高校を中心にストライキや騒擾も頻繁に発生した。
・・・・
・・・・
3 思想善導の本格化

 文部省では、一九三〇年一月一三日の省議で一般社会および学生生徒の思想善導に関する方針を決定し、四月の新年度から実施することにした。

・・・・
・・・・
4 ストライキ・学内騒擾の沈静化へ

 文部省学生部の施策は、実際に個々の大学・高校などでどのような抑圧取締として現出したのだろうか。
 学生主事・生徒主事、主事補の定員は各学校平均四名程度で、学生課に属し、学校長の指揮監督を受ける。

学生課の事務分掌は、指導訓育方面、監督取締方面、諸種の調査事務、処務関係
(兵役・学校教練、学友会に関する事務など)
となる。
指導訓育については、前述の「思想善導」の諸施設推進の中心となる。
・・・・
・・・・
 左傾化防止や「転向」促進のために、父兄への働きかけも重視された。
・・・・
・・・・

(当ブログ主のコメント:この論文の全体は未だ消化し切れていないが、どういう事件がありどういう動きがあったかの客観的事実を知るために、この論文を引用する。
しかしながら、この論文は、それらの事件の解釈を一方的に示しているが、その解釈の正当性を十分に説明し尽していないように見える。単に私の知識不足で、その解釈を消化できないだけかもしれないが・・・。
そういうわけで、この論文のうち、当ブログ主に参考になった記載のみを当ブログに引用しました。) 

(注)この論文の詳細は、この論文の引用元サイト
 「思想統制」から「教学錬成」へ 
を参照ください。


(当ブログによる参考資料)


第一五九回(2004年第159回国会(1月19日〜の会期))
参第一二号
青少年健全育成基本法(案)
目次
前文
第一章 総則(第一条―第九条)
第二章 青少年の健全な育成に関する基本的施策(第十条―第二十一条)
第三章 青少年の健全な育成に関する施策の大綱(第二十二条)
第四章 青少年健全育成推進本部等
第一節 青少年健全育成推進本部(第二十三条―第二十六条)
第二節 地方青少年健全育成会議(第二十七条・第二十八条)
附則
 次代を担う青少年を健全に育成していくことは、我が国社会の将来の発展にとって不可欠の礎である。我が国においては、これまでも青少年の健全な育成のための様々な取組が様々な分野において進められてきたが、なお一層の努力が必要とされている。
  もとより、青少年をめぐる問題は、大人の社会の反映であり、この社会に生きるすべての大人がその責任を共有すべきものである。そして、青少年をめぐる問題 は、家庭、学校、職場、地域その他の社会のあらゆる分野にわたる広範な問題であり、青少年の健全な育成に関する施策をより効果的に推進していくためには、 国、地方公共団体その他の関係機関及び国民各層の協力と密接な連携の下での国民的な広がりをもった一体的な取組が不可欠である。
 ここに、青少年の健全な育成に関する基本理念を明らかにしてその方向を示し、青少年の健全な育成に関する施策を総合的に推進するため、この法律を制定する。
第一章
総則
(目的)
第一条

  この法律は、次代を担う青少年を健全に育成していくことが我が国社会の将来の発展にとって不可欠の礎であることにかんがみ、青少年の健全な育成に関し、基 本理念を定め、並びに国、地方公共団体、保護者、国民及び事業者の責務を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定めることにより、青少年の健全な 育成に関する他の法律と相まって、青少年の健全な育成に関する施策を総合的に推進することを目的とする。
(基本理念)
第二条

 青少年の健全な育成については、家庭、学校、職場、地域その他の社会のあらゆる分野におけるすべての構成員がそれぞれの役割及び責任を担いつつ、相互に協力しながら一体的に取り組まなければならない。
2 青少年の健全な育成については、次代を担う青少年が、心身ともに健やかに成長し、社会とのかかわりを自覚しつつ、次代の社会の担い手としてふさわしい自立した個人としての自己を確立できることを旨としてなされなければならない。
3 青少年の健全な育成については、青少年の発達段階に応じて必要な配慮がなされなければならず、特に、十八歳未満の青少年に対しては、良好な社会環境の整備が図られるように配慮されなければならない。
4 青少年の健全な育成に関する施策を講ずるに当たっては、家庭及び学校が青少年の健全な育成において果たすべき役割の重要性にかんがみ、家庭及び学校が青少年を健全に育成する機能を十分に発揮することができるように配慮しなければならない。
(国の責務)
第三条

 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、青少年の健全な育成に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
(地方公共団体の責務)
第四条

 地方公共団体は、基本理念にのっとり、青少年の健全な育成に関し、国との連携を図りつつ、その地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
(保護者の責務)
第五条

 親権を行う者、未成年後見人その他の青少年の保護者は、青少年の人間形成にとって基本的な役割を担うことにかんがみ、基本理念にのっとり、その保護する青少年を健全に育成すべき第一義的責任を有することを自覚し、その育成に努めなければならない。
(国民の責務)
第六条
 国民は、家庭、学校、職場、地域その他の社会のあらゆる分野において、基本理念にのっとり、青少年の健全な育成に努めなければならない。
(事業者の責務)
第七条
 事業者は、基本理念にのっとり、その事業活動を行うに当たっては、国又は地方公共団体が実施する施策に協力し、その供給する商品又は役務が青少年を取り巻く社会環境に悪影響を及ぼすことがないようにする等青少年の健全な育成に努めなければならない。
(法制上の措置等)
第八条
 政府は、青少年の健全な育成に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告)
第九条
 政府は、毎年、国会に、青少年の現状及び政府が講じた青少年の健全な育成に関する施策についての報告を提出しなければならない。
第二章
青少年の健全な育成に関する基本的施策
(国民的な広がりをもった取組の推進)

第十条
 青少年の健全な育成に関する施策は、基本理念にのっとり、国、地方公共団体その他の関係機関及び国民各層の協力と密接な連携の下に、国民的な広がりをもった一体的な取組として推進されなければならない。



(国民の理解と協力を得るための措置)
(2014年法案の第13条)
第十一条
 国、地方公共団体その他の関係機関は、青少年の健全な育成に関し、広く国民各層の関心を高め、その理解と協力が得られるよう、必要な広報その他の啓発活動を積極的に行うものとする。
2  国は、前項に規定する広報その他の啓発活動をより推進するものとして、青少年の健全な育成に関する強調月間(以下この項において単に「強調月間」とい う。)を設けるものとする。この場合において、国及び地方公共団体は、強調月間の趣旨にふさわしい事業を実施するように努めなければならない。


(社会環境の整備等)

(2014年法案の第14条) 
第十二条
 国は、青少年にとっての良好な社会環境の整備及び青少年の健全な育成を阻害する行為の防止について必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(意見の反映)

(2014年法案の第15条) 
 第十三条
 国は、青少年の健全な育成に関する施策の策定及び実施に資するため、青少年、保護者その他の国民の意見を国の施策に反映させるために必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(調査研究の推進)

(2014年法案の第22条)
第十四条
 国は、社会環境が青少年に及ぼす影響に関する調査研究その他の青少年の健全な育成に関する施策の策定に必要な調査研究を推進するように努めるものとする。
(国際的な協力のための措置)

(2014年法案の第16条) 
第十五条
 国は、外国政府又は国際機関との情報の交換その他青少年の健全な育成に関する国際的な相互協力の円滑な推進を図るために必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(地方公共団体及び民間の団体に対する支援)

(2014年法案の第17条)
第十六条
 国は、地方公共団体が実施する青少年の健全な育成に関する施策及び民間の団体が青少年の健全な育成に関して行う活動を支援するため、情報の提供その他の必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(地方公共団体における施策の総合的推進)

(2014年法案の第18条)
第十七条
 地方公共団体は、当該地方公共団体の区域の特性に応じ、青少年の健全な育成に関する施策を、当該地方公共団体における関係行政機関相互の密接な連携の下に、総合的に推進するものとする。
(地方公共団体における社会環境の整備等)

(2014年法案の第19条)
第十八条
 都道府県は、条例で定めるところにより、その区域において、青少年にとっての良好な社会環境の整備及び青少年の健全な育成を阻害する行為の防止について必要な措置を講ずるように努めるものとする。
2 市町村は、条例で定めるところにより、その区域において、青少年にとっての良好な社会環境の整備及び青少年の健全な育成を阻害する行為の防止について必要な措置を講ずることができる。
(青少年健全育成支援センター)

(2014年法案の第20条)
第十九条 都道府県及び市町村は、青少年健全育成支援センターを置くことができる。
2 青少年健全育成支援センターは、青少年にとっての良好な社会環境の整備のための事業、青少年の非行防止のための事業、青少年の育成に関する相談に応ずる事業その他の青少年の健全な育成に資する事業を行うことを目的とする機関とする。
(地方公共団体相互の協力)

(2014年法案の第21条)
第二十条
 地方公共団体は、青少年の健全な育成に関する施策を円滑に実施するため、相互に協力するように努めなければならない。
(配慮)

(2014年法案の第23条)
第二十一条
 国及び地方公共団体は、青少年にとっての良好な社会環境の整備及び青少年の健全な育成を阻害する行為の防止について必要な措置を講ずる場合には、言論、出版その他の表現の自由を妨げることがないように配慮しなければならない。
第三章

(2014年案での第11条と第12条)
第二十二条

青少年の健全な育成に関する施策の大綱
 青少年健全育成推進本部は、基本理念にのっとり、青少年の健全な育成に関する施策を総合的かつ有機的に推進するため、青少年の健全な育成に関する施策の大綱(以下本則において「大綱」という。)を作成しなければならない。
2 青少年健全育成推進本部は、前項の規定により大綱を作成したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
3 前項の規定は、大綱の変更について準用する。
第四章
青少年健全育成推進本部等
第一節
青少年健全育成推進本部

(戦前の、文部省の教学局に対応)
(青少年健全育成推進本部の設置及び所掌事務)
(2014年法案の第34条)
第二十三条 内閣府に、青少年健全育成推進本部(以下「本部」という。)を置く。
2 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 大綱を作成し、及びその実施を推進すること。
二 前号に掲げるもののほか、青少年の健全な育成に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。
(本部の組織)

(2014年法案の第35条)
第二十四条 本部は、青少年健全育成推進本部長、青少年健全育成推進副本部長及び青少年健全育成推進本部員をもって組織する。
2 本部の長は、青少年健全育成推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。

3 本部長は、本部の事務を総括する。
4 本部に、青少年健全育成推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、次に掲げる者をもって充てる。
一 内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第九条第一項に規定する特命担当大臣で同法第四条第一項第十四号に掲げる事項に関する事務並びに同条第三項第二十六号の二及び第二十七号に掲げる事務を掌理するもの(以下「青少年健全育成担当
大臣」という。)
二 内閣官房長官
三 国家公安委員会委員長
四 法務大臣
五 文部科学大臣
六 厚生労働大臣
5 副本部長は、本部長の職務を助ける。
6 本部に、青少年健全育成推進本部員(以下「本部員」という。)を置く。
7 本部員は、本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣をもって充てる。
(青少年健全育成会議)

(2014年法案の第36条)
第二十五条 本部に、青少年健全育成会議(以下この条において「会議」という。)を置く。
2 会議は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 大綱の案を作成すること。
二 前号に掲げるもののほか、青少年の健全な育成に関する施策についての重要事項を調査審議し、及びその施策の実施を推進すること。
三 前号に規定する事項に関し、必要があると認めるときは、本部長に対し、意見を述べること。
3 会議は、会長及び委員十人以内をもって組織する。
4 会議の会長は、青少年健全育成担当大臣(青少年健全育成担当大臣が置かれていないときは内閣官房長官)をもって充てる。
5 会議の委員は、次に掲げる者をもって充てる。
一 会長以外の副本部長
二 青少年の健全な育成に関し優れた識見を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する者
6 会長は、必要があると認めるときは、第三項及び前項の規定にかかわらず、本部員を、議案を限って、委員として、臨時に会議に参加させることができる。
7 第五項第二号の委員の数は、同項に規定する委員の総数の十分の五未満であってはならない。
8 第五項第二号の委員は、非常勤とする。(政令への委任)
第二十六条
この法律に定めるもののほか、本部の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
第二節

 (2014年案での第27条と第28条に対応)
第二十七条
地方青少年健全育成会議
 
(戦前の各県の地方国民精神文化講習所に対応)
都道府県及び市町村は、条例で、次項に掲げる事務を行うための合議制の機関(以下「地方青少年健全育成会議」という。)を置くことができる。
2 地方青少年健全育成会議は、当該地方公共団体における次に掲げる事務をつかさどる。

青少年の健全な育成に関する施策の総合的な推進を図るために必要な重要事項を
一 調査審議すること。
二 青少年の健全な育成に関する施策の実施のために必要な関係行政機関相互の連絡調整を図ること。
三 前二号に規定する事項に関し、当該地方公共団体の長及びその区域内にある関係行政機関に対し、意見を述べること。
四 前三号に掲げるもののほか、青少年の健全な育成に関し条例で定める事項を調査審議すること。
3 前二項に定めるもののほか、地方青少年健全育成会議の組織及び運営に関し必要な事項は、条例で定める。
第二十八条 地方青少年健全育成会議は、相互に緊密な連絡をとるように努めなければならない。


附則

・・・

理由
  次代を担う青少年を健全に育成していくことが我が国社会の将来の発展にとって不可欠の礎であることにかんがみ、青少年の健全な育成に関する施策を総合的に 推進するため、青少年の健全な育成に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、保護者、国民及び事業者の責務を明らかにするとともに、施策の基本と なる事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。




青少年社会環境対策基本法案についての見解

2001年3月21日
社団法人 日本図書館協会
  参議院自民党政策審議会の下に設置された青少年問題検討小委員会が昨年4月に策定した「青少年社会環境対策基本法案」(当初は、青少年有害環境対策法案。以下、法案)が、議員立法として今国会に提出されようとしています。  
 日本図書館協会は、戦前に公立図書館が国家意志を担って「思想善導」と 検閲のための機関となった歴史を反省し、戦後、「図書館の自由に関する宣言」(1954年総会決定。1979年改訂)を図書館界の総意として確認し、国民 の知る自由・学習する権利を保障することが公立図書館の基本的任務であることを表明しました。少数意見、あるいは不快、危険と批判を受ける表現をも含め、 言論・思想が自由に表出され自由にアクセスできることが必要です。それが日本国憲法の原理の求めるところであり、図書館はその実現維持のために不断に努力 することを使命とします。  
 本法案は、政府と地方公共団体に対し、子ども達の発達に悪影響を与えると考えられる商品や情報を幅広く規制する権限を与えるものです。子ども達が幸せに成長することは社会の願いです。しかしながら、法案はそれに応えるものではなく、次のような重大な問題点をもっています。  
 第1に、規制の対象とする表現等の内容の定義が不明確で、恣意的な拡大解釈を許すことです。  
 規制を予定する対象を「有害な社会環境」とし、それが「誘発し、若しくは助長する」もの として性と暴力の逸脱行為に加え、これも曖昧な「不良行為」を例示していますが、なおこの3つに限定してはいません。これらの行為を「誘発し」「助長する 等青少年の健全な育成を阻害する恐れのある社会環境をいう」と同義反復して、規制対象とする表現内容を明確に定義していません。これは規制する表現対象の 恣意的拡大を可能にし、表現の自由の萎縮をもたらす立法であり、違憲の疑いが強いものです。  
 第2に、政府は1977年度以来、再三「有害」図書類と青少年の「逸脱行動」とを関係づ けるべく調査を重ねていますが、「有害」図書類に接することが逸脱行動の原因であるという結果は得られていません。表現と行動の因果関係が科学的に証明で きないのですから、どのような表現が逸脱行動の原因であるかを科学的に定義することは不可能で、このことも規制する表現対象の恣意的拡大を可能にします。  
 法案作成者の談話によると、子どもに親しまれてきた絵本の『くまのプーさん』でさえ大きなまさかりで殺す場面が出てくるという理由で規制の対象になりかねない状況です。(長岡義幸:強まる「有害」規制の動き 『文化通信』 2000.2.5号)  
 第3に、現在46都道府県で施行されている青少年条例の有害図書類の規制に比べて、規制のレベルが高いことです。  
 これら青少年条例の有害図書指定制度は、規制の度を強める一方、一部世論に迎合し、目的 逸脱の疑いのある指定事例が見られるとはいえ、多くが第三者審議機関による指定審査や不服申立ての制度を備えて指定の客観性や透明性を図っています。しか しながら、法案にはこのような表現の自由を尊重する制度はなく、全国斉一の行政措置が強力に執行されることを許すものです。  
 第4に、政府や地方公共団体などの行政機関に、人の価値観やモラルなど内心の領域への侵入を許すことです。  
 例示されている性に関する表現にしても、規制立法は青少年保護が目的とはいえ違憲性の高 いものです。例えば衆議院法制局が衆議院文教委員会に提出した見解「『ポルノ』出版物の規制について」(1977年5月13日)の中でも、「そもそも性の 問題は、人間存在の根元にかかわることであり、家庭・学校その他の場を通じ、良識による判断・選択により問題の解決が図られるべきもの」と述べられていま す。  
 第5に、政府や地方公共団体などの行政機関に、社会の木鐸たる報道メディアに直接介入する権限を与えることです。すでに報道・出版に関わる諸団体から検閲の危険さえ指摘されていますが、私たちもその危惧を抱くものです。  
 「図書館の自由に関する宣言」改訂から20年経過し、宣言は資料提供の規制 や排除などの事例を通じて社会的理解と支持を広げてきました。しかしながら、宣言の基本的精神に反する自己規制が、行政の指示や誘導に基づいて行われる事 例が増加しております。本法案が成立すれば、一層それを助長し、ひいては民主主義の根幹である国民の知る権利を著しく阻害する結果になります。  
 以上の理由により、当日本図書館協会は、本法案が今国会に提出されることに反対を表明します。 


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