2015年11月20日金曜日

日本製武器の世界での競争力は

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日本製武器の世界での競争力は
2015年11月9日(月)Newsweek
ミナ・ポールマン

 武器輸出を解禁した安倍政権だが、国際市場での日本の武器に対する需要は低く転売されてテロ組織に渡るリスクも伴う。

 昨年4月、安倍晋三首相は日本の武器輸出を解禁し、「防衛装備移転三原則」を閣議決定した。
これで日本は、厳格な審査を経た上で、該当する武器の売却が国際平和と日本の安全に寄与すると判断された場合に輸出が可能になった。
日本の防衛政策における大きな転換だ。

 そして1年半後の今年10月、新政策に基づき武器の輸出や他国との共同開発を行う防衛省の外局「防衛装備庁」が発足した。

 日本政府は世界の武器市場と防衛戦略の両方をにらみながら輸出を解禁したとはいえ、この新政策がどのように施行されていくのかについては不安も残る。
世界では日本の武器に対する需要が少ないことも、大きな障害となるだろう。

 安倍はなぜ武器輸出を解禁したのか。
笹川平和財団(米国)の特別研究員ジェフリー・ホーナングによれば、
その目的は製造コストの低減、
アメリカとの協力強化、
同盟諸国との安全保障での積極的な役割、の3点に絞られるという。

 日本製武器の法外なコストの低減は特に重要だ。
販売数が増えれば増えるほど1つ当たりのコストが下がるのは当然だろう。

 しかし、武器輸出解禁によって大幅なコスト削減がすぐにできるかどうかは怪しい。
国際市場での日本の武器の競争力に疑問が残るなか、現実的に考えれば、そのようなコスト削減には数年から数十年を要するだろう。

 コンサルティング企業アバセント・インターナショナルのスティーブン・ガンヤード社長は、日本製武器に対する需要の低さを指摘する。
人気がないのは、認知度が低く、世界的に競争力のある製品がほとんどなく、値段が高いためだという。

 今まで日本の兵器メーカーにとっての顧客は日本政府だけだった。
そのため生産の効率性を追求する必要がなかったと、ガンヤードは言う。

 おそらく一番の皮肉は、最も日本の武器を買ってくれそうなマレーシア、ベトナム、インドネシアといった国々には値段が高過ぎて手が出せないかもしれないことだ。
一方、シンガポールのようにカネのある国はアメリカから買い続けるだろう。
日本の武器は最新鋭でもなく、戦場で使われたこともないためだ。
従って経済的な観点から見た場合、武器輸出解禁による短期的メリットは疑わしい。

日米同盟の不均衡を正す

 とはいえ、日本の防衛産業に市場原理を導入し始めることは、戦略的に重要であり利点もある。
武器の輸出と他国との共同開発は、日本国内の防衛産業を強化し、安全保障をアメリカに依存している現状からの脱却につながるだろう。
また将来に向けた研究開発の資金源も得られる。

 事実、日本の防衛能力を高めることと、日米同盟における不均衡を正すことは密接に関係している。
例えば、日本が目指すオーストラリアの潜水艦の共同開発。
これは日本が「負担の共有」姿勢を示すことで、同盟国アメリカに見放されるかもしれないとの不安を和らげようとしている典型的な事例だ。
日本は自らの安全保障能力を拡大しながら、アメリカをつなぎ留めようとしている。

 武器輸出により
「私たちは儲け、中国に拮抗し、同盟国とのパートナーシップを強化できる。それはウイン・ウイン・ウインの状況をもたらす」
と、
政策研究大学院大学の道下徳成教授は軍事情報誌ディフェンス・ニュースに語っている。

 しかし、外交手段として武器輸出を行ってこなかった日本には、大きな壁も立ちはだかる。
防衛装備移転三原則は安倍政権の方針として新しく打ち出されたものだが、
法制化されたわけではなく、
不確定要素が残るなかで産業界は慎重な判断を迫られるだろう。
実際、特に武器の使用目的や転売に関する規制の法制化は大きな課題だ。

 輸出した武器が最終的にどのように使われるのか、その追跡や監視は頭痛の種になる。
ガンヤードが指摘するように、直接的・間接的を問わず、日本が供給元として名指しされて恥ずかしい思いをするような国または組織に、日本製の兵器が渡ってしまったら一大事だ。

 日本政府はより明確な指針を示すだけでなく、兵器製造の拡大で生じるリスクも共有する姿勢を見せる必要がある。
そのためには、潜在的なバイヤーに対する低利の融資や、研究開発への助成などを行うべきだ。

 アバセントのガンヤードは、日本が「強固な防衛産業基盤をベースに戦略的抑止を構築する」ために「買い取り」という手段があると、産経新聞グループのニュースサイト、SankeiBizに寄稿している。
「企業の吸収・合併、そして国防関連の知的所有権購入というアプローチによって世界規模の国防産業としての地位を『買い取る』ことができる」と、ガンヤードは指摘する。

 しかし、ここでも企業には動機を与える必要がある。
日本企業は、海外の非防衛関連企業よりも防衛関連企業を買収するほうが得策だと納得しなければならない。
たとえ将来的にリスクを伴う可能性があったとしても、国際的な防衛企業のほうが買収するだけの価値がある、と。

狙いはニッチな小型装備

 抱え得るリスクとは経済的な損失だけでなく、ブランド力の低下もある。
新明和工業、三菱重工業、川崎重工業、日立、東芝などの大企業は「死の商人」というレッテルを貼られたくはないはずだ。

 今年5月、横浜で日本初の「防衛見本市」が開催された。
日本でこのような展示会が催されることは大きな進歩だが、
日本の企業や政府機関のブースには銃やミサイルなど「あからさまに」殺傷能力がある装備は展示されず、
軍事産業に対する日本人の心情を物語っていた。

 日本政府がインドやオーストラリアに対し、救難飛行艇US?2のセールスに熱心だったのもそのためだろう。
「非軍事装備」の販売として国民の支持を得やすかったからだ。

 それでは今後、日本はどこへ向かっていくのか。
笹川平和財団のホーナングは、
弾道ミサイル防衛システムに使われるミサイル追跡センサーなど、ニッチ市場を狙った小規模な装備の輸出に焦点が置かれるだろうとみる。
防衛装備庁が輸出や他国との共同開発において調整機関の役割を果たすことも期待される。

 武器輸出に関する政策転換がどれだけ早く実行に移されるかは、政治的な意思に左右される可能性が高い。
つまり、中国や北朝鮮の「武力による威嚇」がどこまで現実味を帯びるかに懸かっている。
だが日本の防衛産業が直面する大きな壁を考えれば、変化はゆっくりと慎重に進んでいくだろう。

From thediplomat.com
[2015年10月27日号掲載]

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