2015年10月1日木曜日

中国の勝ち(インドネシア 高速鉄道)

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中国の勝ち(インドネシア 高速鉄道)
2015年09月30日

高速鉄道に中国案採用、菅氏「理解しがたい」
読売新聞 2015年09月30日 

   インドネシアのソフヤン・ジャリル国家開発企画庁長官は29日、菅官房長官と首相官邸で会談し、
日本と中国が受注を争ってきたインドネシアの高速鉄道計画について、
中国案を採用する方針を伝えた。

 安倍首相は経済政策「アベノミクス」の具体策としてインフラ(社会資本)輸出の拡大を掲げており、今後の影響も懸念される。

 インドネシアのジョコ大統領の特使として来日したソフヤン氏は会談で、中国案の採用理由について「財政負担や債務保証を伴わない新たな提案があった」などと説明した。
菅氏は「(選定の)経緯について理解しがたい。
極めて遺憾だ」と述べ、
インドネシア政府の対応に強い不満を示した。

 高速鉄道計画はジャカルタ―バンドン間の約140キロ。日本の新幹線方式の導入を前提に進んでいたが、
中国は巨額融資をアピールして昨年末から巻き返しを図っていた。
読売新聞 2015年09月30日


インドネシアが計画していました高速鉄道に中国案が採用されたことに対して、菅官房長官は「経緯について理解しがたい。
極めて遺憾だ」と伝達にきたインドネシアのソフヤン・ジャリル国家開発企画庁長官に伝えていますが、
中国の戦略勝ちと言えます。

この高速鉄道計画はジャカルタ―バンドン間の約140キロであり、日本と中国が争い、日本が有力といわれていましたが、突然計画が白紙になり、
仕切り直しとなっていましたが、
ふたを開ければ中国が水面下で工作をして計画をさらった形になっています。

これで中国はロス・ラスベガス間の高速鉄道計画に続く、高速鉄道計画を受注したことになり、アメリカとアジアで
中国新幹線計画が輸出されることになります。

日本は2連敗したことになり、今計画されていますボストン・ニューヨーク・マイアミ間の東海岸計画がどうなるのか、注目されます。
表面的な政治情勢からすれば中国が受注することはあり得ませんが、裏の工作段階では中国が有力となっているようで、中国が受注出来ないのであれば発注を止めるというロビー活動をしているとも言われており、なんとしても日本に受注させない工作をしているといわれています。

勿論、日本の新幹線技術は世界一ですが、これも家電と同じで、複雑な世界最高技術は必要とされていないのです。
例えば、ボストン・NY・ワシントン・マイアミ間は幹線ですが、5分おきに定刻通り運行する必要はないとされているのです。
30分に一本の高速鉄道があればよい訳であり、需要が増えましても15分に一本で十分であり、
ならば日本の精密な運行システムは必要ないとなるのです。

インドネシアも同様で、如何に安く高速鉄道が導入されるのかが最大問題であり、これに中国はすべて中国が仕切るとし、運行(経営)も中国が引き受けるという条件を出してきたもので、これでは日本は勝ち目はありません。

中国が採算度外視の国家威信をかけたプロジェクトとして取り組んできたことを日本が甘くみていたと言えます。

中国の戦略勝ちとなりますが、このようなことを繰り返していれば、中国に『新幹線は中国が最初に開発した』という誤った”歴史”を作られかねません。

アベノミクスでインフラを輸出するという掛け声は勇ましいですが、戦略がなければ勝ち目はありません。
相手は死に物狂いで事業を取りにきているもので、日本ももし本気で事業をとるのであれば、
国家事業として採算度外視をして取り組む必要がありますが、
日本がそのようなことは出来るはずもなく、
結果、指を咥えて見ているしかないのかも知れません。 

(当ブログのコメント)
 以下の、中国戦略の分析を読むと、高速鉄道の受注で中国に負けるということは、中国の軍事戦略に負けるという意味を持つと思われます。
 この、高速鉄道の受注合戦の意味は、 かつての日本とロシアの戦争における戦略拠点の203高地の獲得戦争における日本軍の戦略拠点の思いに匹敵する重要戦略拠点だと思います。(実際には203高地の戦略上の重要性は間違っていたようですが、)インドネシア受注は確かな戦略拠点だと思います。
 愚かな安倍政権は、その戦略拠点の獲得戦争において中国に負けたという意味を持つと思います。

 おそらく、アメリカ政府の意向は、安倍政権に、安保法案を通すような無駄な努力をするより先に、先ず最優先事項は、中国に戦略拠点(インドネシアの高速鉄道の敷設権利)を奪われる事をなんとしても阻止して欲しかったのではないかと思います。

 どんなに値引きして0円受注にしてでも、インドネシアの高速鉄道を受注して欲しかった。

 それに対する今回の安倍政権のあまりにも愚かな対応に対して、もう愛想をつかしているのではないかと思われます。


中国の「一帯一路」構想は単なる「策謀」ではない  
その実現性は?
2015年05月12日(Tue)  岡崎研究所

  エコノミスト誌4月11-17日号が、

「一帯一路」はアジアの政治・経済体制も変えたいと思っている習近平のビジョンを呈したマニフェストであり、
これを空疎なスローガンとか、アジアで主導権を握りたい中国の単なる「策謀」と見るのは間違いである、と警告しています。

 すなわち、新シルクロード構想は、当初、浮ついたものに思われたが、

中国がアジアインフラ投資銀行に500億ドル、シルクロード基金に400億ドルの出資を約束し、実現への弾みがついた。
中国の企業は道路・鉄道・港湾・パイプライン等のインフラ建設で潤い、輸出業者は輸送網の改善の恩恵に浴し、周辺諸国の開発は新たな市場の創設につながるだろう。
中国は、同構想は人類全体に資する、ウィンウィンの構想だと主張しているが、勿論、中国はカネと投資によって友人を獲得することを期待するだろう。

 関係国の反応は様々だ。

石油価格の低下と、ロシアへの出稼ぎ労働者からの送金の目減りで打撃を受けている中央アジアは、中国の関与拡大を歓迎、
旧ソ連邦諸国への中国の影響力浸透を警戒するロシアも、今や中国に依存しており、良い顔をするしかない。

 一方、南シナ海での人口島建設などといった中国の傲慢な振舞いが反感をかっている東南アジアでは、広く疑念が持たれている。

マレーシアの国防大臣は、海洋シルクロードは中国一国ではなく、地域的共同構想であるべきだと述べた。

 しかし、当初懐疑的だったインドネシアのウィドド大統領は、自国の大規模開発計画に中国の投資を期待し、支持に転じた。

3月に訪中し、「海洋パートナーシップ」を約束したが、
訪中前に、東南アジア海域での中国の領有権の主張は認められないと言明し、クギを刺すことは忘れなかった。

 インドのモディ首相は、3月に、スリランカ、モーリシャス、セイシェルを訪問し、協力の強化を約束、

さらに、インド自身の海洋大国への意欲を表明した。
1月にはオバマとともに共同「戦略的ビジョン」も発表している。
周辺諸国との関係強化と対米接近が、中国の野心に対するインドの暗黙の対応と言える。

 モディもウィドドと同様、中国のインフラ投資は歓迎なので、海洋シルクロードを非難はしないだろうが、

中国主導の機関がアジアで大きな役割を果たし、中国海軍が遠洋に進出し、中国が地域の要になる、という習の描くアジアの将来像には、
おそらく二人とも懸念を抱いているだろう。
 しかし、習は、
中国が「本来の歴史的権利」を取り返し、
韓国や日本が自らの意思で米国から離れて中国の勢力圏に入って来る、
という地域的覇権の夢に導かれているようだ。
「一帯一路」は単なる策謀ではなく、実現性さえあるが、
他のアジア諸国にとっては勇気づけられる点は少ない、
と述べています。

 「一帯一路」構想には2つの側面があります。

一つは経済的メリットで、
港湾、交通網、商業施設などを建設する計画は、
エコノミストの言うように中国の企業が恩恵に浴するのみならず、地域の沿岸諸国にとってメリットのあるものであり、
その点では彼らが構想自体に反対する理由はありません。
中国はAIIBを使って投資を行うようです。
AIIBは57カ国が創設メンバーに決まっています。

 すでに「一帯一路」は実現に向かって歩み始めたと言ってよいですが、

ただ、計画が中国に一方的に有利にならないよう、AIIBの運用などをチェックしていく必要があります。

 もうひとつの側面は中国の意図です。

「一帯一路」構想の狙いが、アジア太平洋・インド洋地域における中国の影響力の増大を狙ったものであることは疑いありません。
エコノミストは中国が地域の要になるというのが習近平の描くアジアの将来像であると言っています。
その通りでしょう。
 この点については日本をはじめとするアジア諸国は米国と緊密に提携のうえ、中国の意図をけん制し、阻止するための協力を推進する必要があります。
 その中心となるのはインドとインドネシアであろう。
 インドは当然のことながら、歴史的にインド洋を自国の影響下に置きたいと思っています。
 インドネシアはウィドド大統領が新しい海洋ドクトリンを発表し、インド洋への関心を強めています。
インドネシアはASEANの盟主でもあります。
 日米両国は、この2国との連携を強め、インド洋で戦略的優位を確立しようとする中国の動きをけん制すべきでしょう。
その他のASEAN諸国、豪州、さらには中近東の沿岸諸国との協力も必要です。

 中国の言う「海のシルクロード」が、

中国が戦略的優位を確立する場所ではなく、
沿岸諸国の共通の財であることを、
中国に知らしめることが肝要です。 

AIIBを用いた中国の鉄道戦略 

2015年05月21日(Thu)  岡崎研究所
 

 台湾の国家安全会議の元研究員である蘇紫雲が、4月14日付タイペイ・タイムズ掲載の論説で、
アジアインフラ投資銀行(AIIB)は中国の地政学的戦略、
特に、鉄道戦略を推進する手段であり、
それに台湾が参加することには慎重であるべきである、
と述べています。

 中国は、外交、経済、海外市場進出を含む、3つの柱からなる戦略目標の一部として、AIIBを設立しようとしている。

AIIBは、中国の札束外交の強化 の強化に役立つ一方、中国のビジネスが世界に浸透する助けとなり得る。

 AIIBの加盟国には、鉄道、道路、発電所、水利施設を建設できるよう、融資されることになろうが、

中国以外の国々は、中国の低コストのために、建設業の分野で中国と競争することの困難さに気づいている。
これが、日米等がAIIBに参加したがらない理由の一つである。
台湾にとり、加盟により得られる利益はごく限られており、政府は軽々に資金を出す前に熟考すべきである。

 中国は、ありうべき海上封鎖を突破すべく「一帯一路」構想を打ち上げたものと判断される。

これは、ランド・パワーがシー・パワーに対抗するとの考え方である。

 大陸間高速鉄道が、中国と欧州、インド亜大陸を結ぶ「ニューラル・ネットワーク」として新シルクロード経済ベルトに貢献し、

インド洋における新たな港湾の確保は、中東からの原油の直送、東南アジアの市場や資源との結びつきに繋がる。
それにより、日米に対する中国の競争力が高まろう

 経済的には、AIIBの主たる業務は鉄道建設になろう。

高速鉄道を外交及び経済問題と結びつけようとする中国の努力は、既に実を結びつつある。
トルコ初の高速鉄道が昨年7月に開業したが、その主たる事業者は国営の中国鉄道建築総公司(CRCC)である。

 中国の高速鉄道に関心はあるが莫大な建設資金を払う余裕のない国に対して、中国はこれまで、しばしば高速鉄道と資源の交換をしてきた

それは、今後60年以内に中国の天然鉱物資源の産出が枯渇しそうだからである。

 中国は、取引に融資を与えることでロシア初の高速鉄道建設を勝ち取り、「日中鉄道戦争」の第1ラウンドで勝利した

これは、AIIBのビジネスモデルとなろう。

 100年前、ドイツが初めて「鉄道戦略」を提案し、鉄道の機動性に頼って、東のロシア、西のフランスに対抗しようとした。

1世紀後、中国は、鉄道戦略を、外交、経済、資源安全保障と統合し、この戦略を強化しようとしている。

 中国の「高速鉄道外交」がAIIBの中核に置かれ、

AIIBは、鉄道網を他国に拡大する際の主たる資金源となろう

  台湾は、

限られた資金を、中国が支配する、機構と利益の不明確なAIIBに投ずるべきか、
それとも、日米によるアジ開銀のような成熟した多国間開発メカニズムに投ずるべきか。
答えは自明であろう、と指摘しています。

出典:蘇紫雲‘Rejecting the AIIB is a no-brainer’(Taipei Times, April 14, 2015)
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2015/04/14/2003615870/1

* * *

 AIIBの設立にあたって参加国メンバーにはどのような資格、条件が必要か、という点はいまだ極めて不透明です。

台湾の場合はその典型的な例です。

 台湾の馬英九政権は3月の締切日の直前に、

創始国メンバーとなる意図があることを中国側の準備委員会に内報し、
それに対し、中国側は台湾を創始国メンバーとは認めず、いずれ「適当な名称」による参加を検討したいと回答したと公表されています。

 他のメンバー国は、複雑な台湾の参加資格などの問題に関わりたくないのでしょう。

中国が独断で一方的に決めたことに対し、異論をさしはさむ様子はありません。
こうした状況は、今日のAIIBの設立に当たり、如何にその決定過程やメカニズムが曖昧かつ不透明であるかを如実に示すものとなりました。

 本論評は、AIIBの参加について、台湾が得られる利益は「出資額に比し、ごくごく限られている」として慎重であるべきである、と述べており、

その通りなのですが、
今後の焦点は、参加の際の名称としてオリンピックやAPECで使用されているのと同一の名称を用いるかどうかの問題に移っていく可能性があります。

 本論評は、中国がAIIBを設立する狙いを「鉄道拡張戦略」と結び付けています。

しかし、中国の鉄道建設技術は、
かつてメキシコ政府が中国の落札した鉄道建設を取り消したことが示すように、
世界のレベルから見てそれほど高いものではありません。
それよりも、今回のAIIB設立は、中国にとっては、アジアおよび周辺地域における勢力拡張、
さらには、急速に減速する中国経済の結果から生じる過剰生産力を中国企業に利用させることにあるのではないかと推測されます。

 今後、新たにAIIBという国際金融機関が設立されても、

ADB(アジア開発銀行)から多額の融資を受けてきた中国自身がどのようにこの借金を返還・処理するか、
設立後のAIIBの「格付け」が国際的に見て如何なるものとなるか、
などによって同銀行の運営能力はより具体的に試されることとなるでしょう。

 日本としては、米国と緊密に連絡を取りつつ、少なくとも当面、事態の進展を静観することが適当と思われます。

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