2015年10月16日金曜日

「『ユネスコへの拠出を辞める』という意見は恥ずかしい」河野洋平氏が会見

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「『ユネスコへの拠出を辞める』という意見は恥ずかしい」河野洋平氏が会見
2015年10月15日 記事 BLOGOS編集部

かつて自民党総裁、衆議院議長など務めた河野洋平氏が日本外国特派員協会で会見を行った。
会見では、安保法制や近隣諸国との問題など、現在の自民党の体質について河野氏が自らの考えを述べた。

安保法制、近隣諸国との関係を私は心配している

国会議員を辞めてもう6年になりまして、神奈川県の箱根山の麓にこもっておりますので、少し話が頓珍漢になるかもしれませんが、最近のことについて私の感想を申し上げたいと思います。

せんだって国会が終わりました。
245日という戦後一番長い国会でございました。
この国会は非常に重要な国会だったともいます。
戦後内閣が一貫して守ってきた「二度と決して戦争をしない」という日本の大事な思いを、憲法にまで書き込んである精神を変えてしまった。
しかも、それは国会の議論もしない、閣議決定と言う形で方針を変えたということ。
その結果、委員会、衆議院も参議院も混乱しました。

こうした事態は国会の前、国会の周辺に大変多くの国民が心配して集まるという、最近では見たこともないような状況がそこに出てきました。
私は古い議員ですから、かつての安保闘争、国会の周りを大変多くのデモが通過する時のことを覚えていますけれど、あれは労働組合なり、政党の支部が組織した人たちが多かったのですが、今度のように一人一人が自発的に参加をした。
 買い物の帰りに来た人、子供連れで来た人、初めてこういうことに参加した人が集まって、あの人数になったということは大変大きな驚きでありました。

学生まで含めた多くの人たちが、どうして集まったかと言えば、
安保法制という法律、その中身もさることながら、
安保法制を作り上げる段階で、既に例えば内閣法制局長官の人事に介入するなど、これまでやったこともないような無理なことをやって、
その結果、 多くの憲法学者と意見が違ってしまった。
それまでずっと日本の憲法の解釈を守ってきた内閣法制局の新しい長官がこれまでと違った意見を言わなければいけなくなった。
このようなことが、多くの人たちに不安とか怒りとか驚きとかを与えた結果だと思います。

若い人はこう言いました。
「怒るのは当たり前でしょ。
国会に提案する前に、総理はアメリカの議会に行って説明したんですよ。
戦後一貫して、自衛だけをやってきた日本が今度はアメリカを守る。
そういうことができるようになる法律をこれから作るんですということを、まずアメリカに行って説明してきた。
我々にとっては怒るのは当たり前じゃないですか。」
そう言いました。

そして結局、最後まで、違憲か合憲かということについて国民が納得しないうちに法律が出来てしまった。
また、違憲か合憲かについて、かなりの部分の憲法学者が違憲であるといい、一部の人は合憲と言う。
どちらに軍配をあげるのか。

古い話をして恐縮ですが、昔は予算委員会などに内閣法制局長官が呼ばれてきて、「これは違憲です」「これは合憲です」と言えば、みんなが納得したものなのですが、
さっき申し上げた通り、
内閣法制局長官をあらかじめ恣意的に人事に介入して決めたものですから、内閣法制局長官の 発言がほとんど説得力を持たないという状況になって、
結果、違憲か合憲かわからないままに法律になってしまった。

私は心配しているのです。
もしかすると、とんでもなく日本の国会、政治家は民意とかけ離れていってしまっているのではないか。
もし、そうであるとすれば、これはとんでもないことだと思います。

もう一つの心配は、ここしばらくの間、平和志向という日本の国の方向が、例えば特定秘密保護法、武器輸出三原則の緩和、ODA大綱の改正、そういったもので随分と変わってきてしまっている。
その結果、集団的自衛権の行使というものも閣議で決める。
安保法制は混乱の中で議決する。
どうもこれまで日本が歩んできた方向とベクトルが変わってきてしまったのではないか。私は心配なんです。

どうも日本の政治が劣化しているなんていうことを新聞に書かれます。
その劣化の原因を私が考えると、小選挙区制もその原因の一つかもしれません。
あるいはまた政治資金規正法というものも緩んできたんじゃないか。

これも古い話ですが、かつて経団連の平岩会長は自民党との長い付き合いの中で、大変苦心しながらも「政治資金は抑制しよう」「企業の献金はできるだけ抑制しよう」と説かれたのですが、今の経団連は積極的に自民党への資金協力を呼びかけるいう風になってきています。
これらが武器輸出三原則の緩和などに影響があってはならないと私は思います。

もう一つの心配事は近隣国との関係です。
安保法制の審議の際に中国を名指しで危機感を言い募りました。
確かに日中の両国の関係は様々な問題を抱えています。
歴史認識問題をはじめとした古い問題から、ユネスコを舞台にした世界記憶遺産の問題、スパイ問題など様々な問題があります。

しかし、こんな時に中国は楊潔チ国務委員が日本を訪問しました。
中国では国務委員と言えば、国会指導者という場合もあります。
そのクラスの人が日本に来るのは、本当に久しぶりであります。
これは中国がどういうメッセージを日本に出しているのか。
私は大変関心があります。
習近平国家主席が訪米した後、これから日中韓の三カ国会議がソウルで行われる。
あるいは、第5回中国全国大会が開かれて、今後5年間の経済計画がそこで議論されるという直前、こういうタイミングで楊潔チさんが突然日本を訪問されました。

中国の狙いは一体何なのでしょうか。
米中関係の中で、日本にどういう役割を期待しているのか。
あるいは、中国経済のこれから先の動きについて、日本との関係を考えているのか。
様々なことが予想される中で、楊潔チさんが突然来られてしまった。
何故なのか、そして結果がどういうことになるのか。

日中首脳会談がセットされるのか、あるいは日中の首脳の相互訪問みたいなものが実現に向かって動くのか。
様々ないい方向に動いてほしいという期待はしておりますが、今のところ私にはまだわかりません。

韓国の大統領は支持率が元に戻りつつあります。
大変良いことだと私は喜んでおります。
しかし、先日訪韓された公明党の山口さん、あるいは大島衆議院議長、共に韓国の要人と会談しましたけれど、従軍慰安婦問題の早急な善処を強く求められたと聞いています。

この問題の解決は、両国首脳の覚悟が必要だと私は考えます。地球儀外交とかいろいろ言いますけれども、隣国との関係を一日でも早くより良いものにしてほしい。そう願います。

―南京大虐殺については認定されたが従軍慰安婦についてはユネスコから認定されなかった。来年も申請されたらどうするのか。(シンガポールの記者)

記憶遺産についてのやり方は、まだまだ制度的に不十分なところがあると言われています。
もっと透明性の高いと言いますか、どういう根拠で提案されたかというようなことがオープンにされて、充分に双方の話し合いができるような、そういうシステムが出来てほしいと思います。

それはそれとして、従軍慰安婦の問題については、議論があれば日本側は日本側のこれまでの考えを述べるということになるでしょう。
それはまだ生存しておる慰安婦の方々に対する我々の気持ちというものも十分に伝えなければならないと思いますし、記録に残る場合には、どういう形の記録に残るかということについて、よく話し合う必要があると思います。

―南京大虐殺が認定されたことについては?

南京で虐殺という事態があったということは、日中両国で歴史認識として事実であるということが確認されています。
これはご存知の通りだと思います。
問題は、そこで何人の人が殺されたかというところに、両国の資料が違っているわけです。
一方的に中国側の資料で記憶遺産ということを言われると、日本側としては「そうですか」というわけにはいかないというのが、おそらく政府の立場だと思います。

私が言いたいのは、こういうやり取りで何か「南京事件そのものがなかったんじゃないか」あるいは「少し事実違うのではないか」という議論に持っていこうとするのであれば、それはまったくやるべきでないことだと思います。
事実は事実として認めながら、ただ記憶遺産として残す以上は、より正確なものを残す。
そのために両国がもっと真摯な資料にもとづく議論をする必要があると思っています。

もう一言付け加えれば、こうした問題についてユネスコに対する拠出金を辞めようというような意見が国内にあるということが伝えられていますが、まったく恥ずかしい話だと私は思います。
ユネスコが今世界に果たしている役割、その重要性、有効性というものは、相当大きなものだということは、世界の人たちが認めていることです。

そのユネスコの活動に大きな影響を及ぼすような日本からの拠出を辞めるような意見が、出てくることを恥ずかしいことだと思います。
これはかつて、政党の中で、自分たちに都合の悪い記事を書く新聞に対して、「広告主に言って、広告を止めたらいいじゃないか」と議論してみんなから笑われましたが、同じ性質のものだと思います。

こういう問題が起これば起こるほど、だから早く日中両国の関係改善、信頼できる関係になるための政治的努力が必要なのだと私は思います。

―先程、共産党の志位氏がここで会見を行い、安保法制に対抗するために野党が連合政府を組むために、選挙協力をするというような話もあったが、それについてどのように考えるか。(ロイター)

リタイアした人間が政党の党首に対して、いろいろ言うのは失礼かと思いますが。
今の政治状況では過去の経験は役に立たないかもしれませんが、私の経験から言わせてもらえば、ここで一辺に連合政権構想というようなことを言われても、なかなかそれは難しいのではないか。

むしろ大事なことは今、国会審議の仕方であるとか、どんな法律が重要なのかという考え方、そういったものが少し強引かつ極端にこれまでと違った方向に行きつつある政治をまず止めるというところから始めるべきでしょう。
当然そのためには選挙協力が必要だと思いますけれども、まず、そういう流れを止めるというところから議論をされる方が良い。

連立政権というのは、かつての細川連立政権の時もそうでしたが、なかなか成功することは難しい。
やはり連立政権が出来るまでに若干の成熟期間というものが必要で、そういうものを持たずにいきなり連立政権をつくろうというのはなかなか難しい。

つまり、自民党という政党に対しては、相当の大きな政策について、いい部分については支持がある。
一方で、今度の安保法制のような少々極端な、長い間守ってきた日本の国の平和的なブランドを壊してしまうような、そういう動き、これはやはり止めなきゃいかん。
そういうことであって、 そのことで全部を否定しろということになってしまうと、これはなかなか国民的な合意、選挙戦で多数を取るというのは難しい。

なので、そうではなくて今のやり方をまず止めると。
そこから始めることが良いのではないかと。 
それは国民がみんな、「今のやり方は止めてほしい」と思っている人が相当多いと、今野党の方々思っているでしょうから。
そこで合意をすることはありうるかもしれません。

自民党という政党は、大変幅広い多彩な政策を持っていて、その政策は有権者から支持されている政策もあるし、不安に思われている政策もある。
これまで自民党は、相当多様な人材が党内で充分議論することが出来た。
どうも最近心配なのは、党内に十分な議論がない。
そこが非常に心配。
そこはぜひ昔のような自民党、それが無理なのであれば新しい自民党になってほしいと思います。
そうでなければ支持はだんだん少なくなっていくでしょう。

―自民党はここ最近、非民主主義的なことになってきていると思いますか。

思います。

―安保法制の審議の進め方についての問題があるとの話だったが、憲法改正をすれば問題ないのか。それとも憲法改正すべきではないと考えるか。(オーストリアの記者)

少なくとも今度のようにやりたければ、憲法を改正してからやらなければいけなかったと思います。
私自身は、憲法改正する必要はないと思いますし、こういう国の方向というのは、必ずしも いい方向だとは思っていません。

―原子力発電所の再稼働が進んでいる。息子である太郎氏が入閣して、原子力行政に対する意見の食い違いから苦しい立場に置かれている部分もあるように見える。今の日本の原子力政策についての考えを聞かせてほしい(フランスの記者)

現在の日本の原子力政策はせがれに聞いてください。(会場笑)

しかし私もかつて政治家であった、包み隠さずいえば、私もかつて科学技術庁長官だったことがありますから、責任の一端はあると思いますので、その点についてはお答えしたいと思います。

私は少なくともあの福島の事故の後始末というか、まったくうまくいってない状況を非常に残念だと思うと同時に、とても心配をしています。
汚染水の処理管理も充分にアンダーコントロールされているとは思えません。
今のようなやり方だと永遠に地下水とか雨水とか戦い続けなければいけない。
それがずっと保ち続けることができるとは私は思わない。
どうすればいいのか。
答えがでないままに次に進むというのは、私はやるべきことではないと考えています。

祖先伝来の土地で一生懸命真面目に農業を営んでいた人たちが、まったくそこに戻ることができない。戻ったとしても、安心して食べ物が生産できないという今の状況は、大変罪深いものだと私は思います。

どうすればいいのか。
もっと深刻に考える必要があると思います。
復興についても、もっと真剣に考えなければいけません。
いろいろな状況が出てきて、復興の進み方が遅れているように思いますが、そういうことはあってはならないと思います。
コストの問題があったり、いろいろな問題があったとしても、やはり持続可能な他の電力供給源をもっともっと開発、振興していくべきではないでしょうか。

―近隣諸国と歴史問題で今でも和解できていない要因の一つに慰安婦の問題があると思います。慰安婦については、朝鮮半島だけではなく、インドネシアなどでも出てきているので、アジア全体の包括的な調査は今まで行われてこなかったが、こうした調査を実施することが日本のためになると思うか。(タイムズ)

慰安婦の問題は、おっしゃるように相当アジアに幅広く存在していたという風に私も思います。
その中で例えば、オランダなどは既にオランダ独自で相当しっかり調査があって、裁判まで行われていて、結論が出ています。
これはオランダの外務省が発表している通りですが、そうしたことを見ていると、それぞれの国には、それぞれの国のいろんな事情があって、共同して調査が出来るかどうかという問題もあると思います。

しかし、私は少なくとも日本は従軍慰安婦という本当に過酷な大変お気の毒な状況にあった人たちというものを、もっと大事にというか、丁寧に対応してあげる必要があると思います。
これはもちろん、国家と国家の仕事といえばそうですが、私は人間と人間というような関係で、もっともっと大事にする、丁寧なお付き合いの仕方を一方で考える必要もあるのだろうと思います。

おっしゃるように大規模な広範囲な共同の調査というものは、どういう風にやるとできるのかというのは、今はわからないが、一つの考えとして大事なことじゃないかと思う。

―慰安婦制度そのものがなかったという立場の人たちもいる。ここ数年、そうした言説が再度勢いを持ちつつあるようにも思うが。

私は日本人として、この問題が事実は事実としてキチンと認めて、謝罪するものはキチンと謝罪をする。
それから何か救済する方法があるとすれば、それは誠心誠意救済するための努力をするということが大事なのであって、この期に及んでそういうことがなかったと主張するというのは、私にとっては到底理解できない。

そしてまた、「他でもやっていたじゃないか」と言って、他でもやっていたからといって自分がやっていたことを正当化するようなやり方は私は恥ずかしいことだと。
それが日本の国にとってプラスになるとは私は思っていない。

―北朝鮮との関係について。北朝鮮との問題を解決するためのヒントはあるか。また、経済制裁の効果について、どのように考えるか。

北朝鮮の問題はとても難しい問題です。

我々にとって拉致問題というのは、これを横において話をすることが大変難しい。
しかし、かつて金大中という南北朝鮮の問題に尽力したということでノーベル賞をもらった韓国の大統領が、私に、
「自分の個人的意見だけれども日本はもっと積極的に話し合ったらどうか。
そのためには、拉致問題というのは入口に置かないで出口に置くべきじゃないか。
入口において全然入れないというのでは、問題解決にならない。
しかし、この問題をないがしろにするわけには絶対にいかないだろう。
したがって、これは出口において、問題が全部解決した時には、この問題を最後の問題として、これを解決しなければ出ていかないという風に考えたらどうか。
少なくとも、今のように入口において、何らかの進展がない限り、絶対に部屋に入らないという考え方はどうなのか」
と言われたことがあります。

もちろん、
「君の立場もわかるし、日本の人たちがこの問題でどれだけ悲しんでいるか、怒っているか。
私はよくわかっている。わかっているけれども、そうしたことも考えていく必要があるのではないか」
とも言われました。

私はそれについては、外務大臣在任中には人には言いませんでした。
しかし、私の心の中に金大中さんのコメントはずっと残っていました。
これ以上のコメントは勘弁してください。

―村上誠一郎さんのような例外を除いて、異論がほとんど出てこない状況にあるが、今回の安保法制、集団的自衛権の行使を可能にする法律について、本当に自民党の大多数が賛成していると思うか。

また、フリージャーナリストからの質問を受け付けない、この会見場に自民党の幹部を呼んでも来てもらえないという状況がある。
かつての自民党と体質が変化しているのではないかという思いがあるのだが、見解を聞かせてほしい。(ビデオニュース)

いろんな理由があると思いますが、その一つに選挙制度の改正、小選挙区制の導入というものがあったのではないか。
私は実はそれに関わった人間なものですから、贖罪の意味を込めて、これが悪かったんじゃないかという気持ちはずっと持ち続けているのです。

あくまで以前と比べての話ですが、やはり一人の選挙区から議員が一人しか出ない。
一人ですべてを代表するわけですから、かつての中選挙区制で、一つの選挙区から二人、三人の議員が出ていた時の方が、農業、経済、福祉、それぞれの専門家が選ばれていたように思うんですね。
 つまり、有権者が選ぶ、選択肢があったように思うんです。

今は、どの政党を支持しても、一人しか出てこないわけですから、その一人が何の専門家であるか、それぞれの分野についてどのような議論を持っているかというのは党の公約を見る以外にない。
 しかし、党を選ぶということになると、非常に選択肢がなくなってしまうということで、議員を選ぶという有権者の選択肢が非常に少なくなってしまっているということに一つ原因があるのではないかと思っています。

―昨今、保守派の中に慰安婦の存在自体を否定する記者や言論人がいますが、そうした考えを持つ議員がいるとお思いですか。

国会議員の中に、今や慰安婦の存在がなかったと言っている人はいないと思います。

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