2010年11月27日土曜日

社団法人自由人権協会が東京都青少年条例の改悪に反対声明




 以下の声明は 
http://www.jclu.org/file/tokenzenikuseijourei2010seimei.pdf 
からコピーさせていただきました。

2010 年11 月26 日
社団法人 自由人権協 会
代表理事 羽柴 駿
同 紙谷雅子
同 田中 宏
同 喜田村洋一
同 三宅 弘

東京都青少年健全育成条例改定案に関する声明


東京都が提案した「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」(第30 号議案)は2010 年6 月議会で否決されたが、同条例案と趣旨を同じくする議案(以下「本条例案」と呼ぶ)が12 月議会に上程される予定であるという。

すでに一部で報道される内容をもとに判断をするに、今回の条例改定には、とくに憲法的見地から、看過しえない問題点が存する。

したがって、自由人権協会はここにその問題点を指摘するとともに、今回の青少年健全育成条例の改定について、抜本的な見直しを求めるものである。

(1)条例改定案が有する基本的問題に関して
本条例案のポイントは、インターネット上の「有害」情報対策(第5 条の2、第18 条の7 以下)と「有害」図書規定範囲の拡張による販売等の規制(第7 条、第8 条、第9 条の2 以下)、児童ポルノの根絶(第18 条の6 の2 以下)に係る改定であると説明されている(東京都作成資料ほか)。これは2010 年1月に東京都青少年問題協議会が提出した答申『メディア社会が広がる中での青少年の健全育成について』の3 つの柱に対応している。
 

具体的には、第1 に、青少年「有害」情報フィルタリングソフトウェア、フィルタリングサービスを通じ、青少年が情報を閲覧する機会を制約する努力義務を事業者に課すだけでなく、携帯電話端末等のフィルタリングサービス利用に関し、解除の正当な理由を記載した書面の提出を保護者に求めるオプト・アウト方式を規定し、実質義務づけを行なっている。
 

第2 に、18 歳未満との年齢規定や非実在青少年といった造語による規制対象の規定方法は今回の修正によって削除されたものの、青少年を性的欲望の対象として賛美・誇張して描写することを青少年の健全な成長を阻害する事項に追加し、法律で禁止されている児童ポルノ(の単純所持違法化)のみならず、それ以外の青少年性的視覚描写をも蔓延抑止という理由で指導・資料提出権を導入としている。

第3 に、インターネット上の表現規制については国レベルにおいて法整備と自主規制のルール作りが急ピッチで進んでいるにもかかわらず、問題があるとみなす表現に対するアクセス一般を制限し得る「有害」基準策定を東京都規則に委任し、その基準をもとに勧告・公表・調査を組み合わせた都独自の上乗せ規制の仕組みを構築している。


これらの規定には、表現の自由のさまざまな観点からの疑問だけでなく、法秩序における適正な手続の保障や個人の尊厳と幸福追求への障碍となることからも、非常に問題があるといわざるを得ない。この声明は、とりわけ上記の第1点と第2 点について、その問題点を指摘するものである。

(2)フィルタリングに関して
青少年の健全な育成が地方公共団体の関心事となり得ることは否定しないが、青少年の健全育成のために必要とされる判断権限はその保護者等に委ねられており、保護者等が適切な判断をしないことがあるとしても、また、その判断が青少年の最善の利益に常に合致するとは言い難いとしても、

保護者等の権限を行政等が適宜代位行使することや、容易に剥奪することは、現在の法制度は認めていない。

子どもが「違法な行為をし,又は自己若しくは他人に対し有害な行為をすることを防ぐため」に保護者等が選択する手法は、その子どものおかれた状況により千差万別であり、個別具体的な事情に応じた判断を必要とすることに鑑みれば、その是非について地方公共団体が一律の基準を用いて保護者の判断に介入する余地はないはずである。


このように考えると、本条例案が
「携帯電話端末等による青少年有害情報の閲覧防止措置」に関し、保護者等に対し、青少年有害情報フィルタリングサービスを利用しない場合に、正当な理由を記載した書面を携帯電話インターネット接続役務提供事業者に提出することを義務とすること(第18 条の7 の2第1 項)、
保護者が青少年のインターネットの利用状況を適切に把握し管理することを求めるとともに、再発防止のための資料提供の努力義務を保護者に課すこと(第18 条の8 第3 項)は、
憲法第13 条に照らし、その相当性が極めて疑わしい規定ということになる。

(3)マンガ規制に関して
従来から本条例第7条の「性的感情を刺激し」等の表現に関しては、主観的で不明確だとの批判があったにも関わらず、本条例案では、その規制の対象を同条第2 号において「漫画、アニメーションその他の画像」まで一気に拡大している
また、表現方法として「不当に賛美し又は誇張する」ものとしているが、
これらは極めて主観的な評価であり、表現物に対して不利益な取り扱いをする基準として具体的に何を指し示すかが明らかでないばかりか、

(当ブログの注釈:漫画・アニメに分類される著作物の中で、18歳未満との性行為(これは東京都条例では刑罰法規に触れる)を言葉あるいは歌によって賛美する行為も該当するとも解される)
施行後には、現場の行政官が実質判断をすることによって、恣意的な運用が避けられない規定振りとなっている。


そもそも表現の自由は、人格形成や民主主義社会の維持・発展に不可欠なものとして憲法のなかでも優位的な地位が与えられており、
これを制約する場合には、厳格かつ明確な基準によらなければならない。
不明確な法文による規制は、萎縮的効果をもたらし、本来保護されるべき表現をも控えさせてしまう。
よって、法令の文言が漠然不明確であって、どのような行為を規制しようとするものかが一義的に明らかでない場合には、恣意的判断や拡大解釈の余地があり、萎縮効果を生むものであって許されない。
また、規制対象にマンガを含めることは、実在しない被害者の存在しない行為を規制することとなる。


これは、現実に発生している児童への虐待を違法とし、児童保護をその法益とする児童ポルノ処罰に関する考え方とは根本的に異なるものであり、表現物に対する一定の道徳的価値観に基づく規制となっている。
このような善良な性風俗・青少年の健全な育成といった抽象的な保護法益は、表現活動に優先するものとしては不十分であり、
また今日において、そのような社会的合意があるとはいいがたい。


このように、本条例案は実写とマンガを同一視し、保護法益が不明確なままに表現規制の範囲を著しく拡大させるとともに、
恣意的な判断や拡大解釈の余地を残す条文によって表現の自由を規制するものであり、
憲法第21 条の趣旨から許されない。


なお、子どもに対する性的搾取の廃絶を求める内外の要請について、これに応える必要性は認めるものであるが、
そのような要請が民主主義にとっての礎石ともいえる表現行為の規制に向かう場合には、
その必要性や、もたらす効果が厳しく問われなければならない。
とりわけ、マンガやアニメーションという表現行為は、
メッセージや思想内容を柔軟かつ効果的に伝える手法として、
日本を中心に世界へ広まっている重要な表現形態であり、
そのなかの一部の表現がもたらすかもしれない害悪や危険という漠然としたおそれを理由にその表現形態が持つ可能性を奪いかねない規制には、十分に慎重であるべきである。


同様なことは、日本独特な発展を遂げるケータイ小説など、携帯電話を通じてなされるメッセージの交換についても、新たな表現形態として確立しつつあるものであって、
フィルタリングの基準を詳細に表示させることもなく、「有害情報フィルタリングソフトウェア」をオプト・アウト方式で実装させることと相まって、
こうしたケータイ文化の可能性を損ないかねない、強力な表現規制のありようは十分に吟味する必要がある。

(4)議論の手続に関して
本条例案は、憲法上の権利に関わる重大な問題を含むものであり、できる限り早くその内容を公開し、広く都民の見解を求めるべきである。
さらに、都民の意見がどのように活かされているのかについても速やかに公表すべきである。


にもかかわらず今回の改定案に至る一連の東京都の対応は、広く一般市民や有権者の意見を聞くという態度からはかけはなれ、
改定案を本会議ギリギリまで示すことなく、
否決された条例案をベースに、改定の必要性を必ずしも適切と評価されていない資料を用いて関係各所に説得するという方法をとったことが見受けられる。


これは、民主主義の基本である「透明性の高い都政」の実現とはいいがたく、
すでに内容上の疑問が呈されている条例の改定作業としては、きわめて遺憾であるといわざるを得ない。

以上。

リンク:
東京都の強姦犯罪件数(2010年統計)
自民党と公明党の児童ポルノ単純所持罪推進

日本のネオ軍国主義(安部自民党)
ポルノの大幅増加が性犯罪の劇的な減少と相関関係がある。特に青少年の間の性犯罪において顕著。
東京都の青少年条例改正案(第2版)11月22日公開版
アニメやインターネットが少年非行(恐喝)を減少させたかも
少年非行とインターネットは関係無い
マンガを規制すると13歳以下の少年による強姦犯罪が増す
表現・コミュニケーションを規制すると犯罪が増えるという法則
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