2012年7月27日金曜日

少年非行対策のための提案(2003年国務大臣)

 「非行少年はどのように生み出されるか」
の記事も参考にしてください。

 大津(滋賀県)での、学校側の恐喝犯罪放置による被害者の自殺事件は、恐喝犯罪を放置し、隠ぺいした学校側に責任があります。

 それより先に、大津(滋賀県)に恐喝を起こさせる行政のどこに問題があるかを考える必要があります。
  また、日本全体では、携帯フィルタリングを開始したら日本で13歳以下少年による強姦が急増しています。
 そのような状況なので、滋賀県以外の県でも、同様ないじめ自殺事件が起こり得ると考えられます。
 これら、少年犯罪の増加について、過去の知恵を調べていたら、2003年の携帯インターネットの急増以前に、少年犯罪がピークをむかえた時代に識者が検討した提言がありましたので、知恵を拝借するため、以下にコピーさせていただきました。

(参考のためのグラフ) 
http://sightfree.blogspot.jp/2010/11/blog-post_17.html
1963年の日本でのアニメ放送の開始以降、少年犯罪が急速に減少した。また、インターネットの普及とともに少年犯罪(少年非行)が、減少しました。
http://sightfree.blogspot.jp/2012/09/blog-post_17.html
(ハワイ大学 Milton Diamond, Ph.D., et al., International Journal of Law and Psychiatry 22(1): 1-22. 1999)
 ポルノを許容する国は性犯罪が増えるかもしれないという懸念や、ポルノを許容したら青少年が悪影響を受けるか、あるいは、社会が何か悪い影響を受けるかもしれないという懸念は、立証されていません。
 我々のデータから、明らかに、日本では利用可能なポルノの大幅増加は性犯罪の劇的な減少と相関している。特に、若者の加害者と被害者との間の性犯罪の劇的減少が顕著。

(韓国では1997年の青少年保護法の制定で、漫画の表現を大幅に制限した以降に、性犯罪が(自殺率も)急増しました)


 以下の提案は、そのインターネットの普及により少年犯罪が低下する以前の、2000年頃までに少年犯罪が増していた時代に提案されたものです。

少年非行対策のための提案
平成15年9月(2003年9月)

国務大臣 鴻池 祥肇

はじめに
 現在、全刑法犯のうち4割が、そして街頭犯罪のうち7割が少年犯罪となっており、数値の上では、少年犯罪は戦後第四のピークを迎えたといわれている。さらに、件数だけでなく、犯罪の質の面でも、本検討会成立の直接の契機となった沖縄の中学二年生による殺害事件や長崎の12歳の少年による男児誘拐殺人事件など、少年犯罪の凶悪化・低年齢化が進んでおり、14歳の少年による神戸小学生殺人事件が起きた平成9年以来毎年約2000人の少年による凶悪犯が検挙されている。
 治安の悪化に対する不安感が増す中、特に少年犯罪への対応が、今、政府に強く求められている。しかしながら、少年犯罪の増加や凶悪犯罪の高止まりなどの事実をみると、政府は、神戸小学生殺人事件などの過去の少年犯罪から教訓を得て十分な対策を行ってきたとはいえないと思われる。
 少年犯罪の問題については、その原因は社会にあり、少年は加害者であると同時に被害者でもあるなどといわれてきた。確かに、戦後旧少年法が施行された昭和20年代は少年非行の主役も「生存型非行」であったとされ、経済的貧困という社会生活が少年犯罪に反映していたかもしれない。しかし、現在の少年犯罪・非行の中心は「非社会型」「遊び型」非行といわれ、無力感からのがれるために享楽的雰囲気に身を委ね、弱者をいじめることが特徴であるといわれている(1)。


(1) 澤登俊雄「少年法入門(第2版補訂)」有斐閣(2003年)

学歴社会や享楽的環境を作りあげる経済活動の自由化という社会の影響や家庭崩壊といった問題もあるかもしれないが、戦後に旧少年法が作られたときと同様の意味で、社会が悪い、そして少年は加害者であると同時に被害者でもあるといえるのか疑問があると言わざるを得ない。
 少年犯罪・非行の対策も、このような、従来の考え方の延長で行ってきたために、過去の悲惨な事件から教訓をえることができなかったのではないかと思われる。また、青少年の健全育成に重要な役割を果たすはずである教育についても、このような少年犯罪や非行の増加といった事実を前に、よき節度などを教えた過去の教育を含めた見直しというものが議論されるべき時期に来ていると思う。
 少年法第1条では「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う….…」とされている。これは過ちを犯した少年を保護することが、少年の最善の利益であるということを意味するものと考えているとされている。もちろん「性格の矯正及び環境の調整」には自己の責任を自覚させることも含まれるが、検討会では加害少年には「罪の意識を持っているのか疑問がある者」が少なくない、加害少年の親が無責任で、責任を回避したり転嫁することが多いとの意見もあった。つまり、保護という枠組みのままで、親も含め自己責任を自覚することには無理があり、「罰」という形であるかどうかは別としても、なんらかの形で「悪いことをした」ということを加害者に積極的にわからせる必要性は高いといえる。
 また、少年法自体も保護を目的とすることから直ちに軽い処分をすることを予定しているものではなく、少年にとって常に有利かというと必ずしもそうとはいえない場合もある。これは検討会で出た意見であるが、例えば、20歳を越えて軽微な犯罪を犯した場合には執行猶予になるのに、19歳で犯したため少年法により長期にわたる「保護処分」になる可能性があったり、保護という名の下に、犯罪を犯さなくても虞犯少年として処分される可能性もあるのである。
 少年犯罪・非行に対しては、少なくとも欧米では、「少年保護」とならんで「少年犯罪から公衆を保護」することも重要であるとの考え方が強まっている。特に、我が国の少年法が範としたアメリカでは、少年法の目的そのものを変更し、少年保護の目的に加え、少年による犯罪からの公衆の保護と、少年に自己の行為に対する責任を自覚させることを明記する修正が多くの州でなされた(2)。

  
(2) 松井茂記「少年事件の実名報道はゆるされないのか」日本評論社(2000年)

また、同時に、少年保護から適正手続きの下で事実を明らかにするという流れも見られる。現在の少年法は、少年の保護のため情報はなるべく公開しないとの原則をとっている。例えば、審判は非公開(少年法第22条第2項)とされ、記事等の掲載も禁止されている(少年法第61条)(3)。

(3) これら非公開原則に対して、平成12年改正は被害者等による記録の閲覧及び謄写の例外を認めた

しかし、検討会では、否認事件が多くなっている中で、証拠を確保し事実を明らかにすることは少年のためにも必要であるとの意見もあった。また、過去の少年事件から教訓を得ていないのではないかということについては前述したが、過去の事件を教訓にし、犯罪予防や子育て不安を解消するには事実解明のための情報が必要であるとの意見も検討会ではあった。
 「少年保護」とならんで「少年犯罪から公衆を保護すること」を少年法の目的とすることや少年法の「非公開原則」を見直すことについては、国民の十二分な議論が必要であり直ちにできるものではない。しかしながら、現行少年法の目的にある「性格の矯正及び環境の調整」の手法については、もはや従来の考え方の延長で行っていては国民の治安維持に対する期待には応えられないと思う。国民の少年犯罪・非行に対する危機感に比べると、以下で述べる提言内容は、小さな改善にしか見えないかもしれないが、今までとは異なる多くの発想を加えたものであると考えている。


1. 少年問題への早期対応
 少年犯罪が起こる前には必ず前兆行動があると指摘されている。また、厚生労働省の調査では、児童自立支援施設入所者全体の約6割、国立の施設では約8割が児童虐待の被害者であるとされているなど、犯罪・非行少年は家庭にそもそも問題を抱えているとされる。このように外部から認識できる予兆があるのであれば、犯罪・非行にいたる前に手を打つことは、万能ではないにしろ可能であり、まず、行われるべき施策である。そのため、以下の提言を行う。
① 補導について
補導される少年は、不良行為少年、非行少年であるが(4)、このうち刑罰法令に触れる行為をしなくても少年法上の保護処分がなされるのは虞犯少年である(5)。

(4) 非行少年は、犯罪少年、触法少年、虞犯少年に区別される
(5) 虞犯少年とは、保護者の正当な監督に服しない性癖にあること、正当の理由がなく家庭に寄り付かないこと、犯罪性のある人もしくは不道徳な人と交際し、またはいかがわしい場所に出入りすること、自己または他人の徳性を害する性
癖のあることが認められること、の事由があって、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年をいう(少年法第3条第3号)

虞犯少年として警察が送致・通告する少年の数は減少してきている(平成14年約1800人)が、これには「ある程度具体性をもった犯罪の蓋然性が認定できないかぎり虞犯とされない」と決定されたこと(6)が影響していると考えられ、この決定が虞犯少年補導を萎縮させており(7)、虞犯少年の取り扱い基準・手続きをより明確にすべきとの意見もある。


(6) 名古屋高決昭和46年10月27日(家裁月報24巻6号66頁)
(7) 前田雅英「日本の治安は再生できるか」筑摩書房(2003年)


しかし、一方で、警察が補導する不良行為少年は平成14年では約112万人ときわめて高い件数となっており、その中心は深夜徘徊(約47万5000人)である。警察職員の数に限りのあるかぎり、警察職員による夜間の警ら活動や補導活動については限界がある。虞犯か否かではなく、補導の「量」を増やすことが非行防止の第一歩となることは確実である。そのため、現在でも学校関係者や補導員などがパトロールに同行することなどが行われているが、学校関係者が補導をすると「教師が警察に生徒を突き出した」などとの批判を浴びたとか、補導員が家庭に連絡すると「どのような権限があるのか」と言われた例もあったという。補導活動を強化するためには、深夜徘徊している少年に声をかけ家庭に連絡することができるような民間ボランティアを増やす工夫(例えば、補導員の公募と研修)をするとともに、補導活動について条例を含め法的に明確な位置づけを与えるべきである。また、警察職員の補導活動についても現在は補導後の手続きを含め明確な規定を欠いている。警察職員の補導活動についても同様に明確な法的な位置づけがなされるべきである。


② 居場所づくりと家庭への介入
 また、補導の中心が深夜徘徊であることは前述したが、それは、少年たちの居場所が学校や家庭にないためであるとの指摘が検討会でも多くなされた。補導された後、補導員が家庭に連絡しても「子どもの非行にあまり関心がない者が増えた」「非行の原因を責任転嫁する者が増えた」「仕事を理由に迎えに来ない」といったこともアンケート結果に現れているが(8)、このような家庭では何度補導しても効果はないだろうし、家庭で児童虐待を受けているのであればなお
さらである。

(8) 警察庁「少年を取り巻く状況等に関するアンケート調査(2002年3月)」(平成14年「警察白書」より)

他方、警察官が不良行為少年のための居場所としてサッカー・チームを作り立ち直りのきっかけとなったとの例や中高の連携した合同部活動などで目的意識を持たせたため問題行動が減少した例(9)もあるという。このような居場所作りが補導前のみならず、非行後、保護措置後も必要である(10)。そして居場所づくりは、地域全体として取組まなければならず、行政だけでは「箱」作りに終わりかねない。地域のNPOなどとの連携により、ソフト面の充実が求められる。


 (9) 日本経済新聞2003年8月23日(文部科学省「平成14年度の生徒指導上の諸問題の現状について(速報)」(2003年)に関して)
(10) 保護措置後の居場所については後述


 居場所、そして規範意識を醸成する場としての家庭が崩壊しているような場合は、保護措置として家庭に介入することが必要である。児童福祉法(第27条)や少年法(第25条の2)でも保護者への訓戒等の指導ができることとされているし、保護処分前の試験観察中に親に対する働きかけは、実際には行われているという。しかしながら、親が表面的でなく心から指導等に従うことは少なく実効性に乏しいとの指摘が検討会ではあった。このような問題家庭を発見し積極的に介入していく必要がある。家庭への介入に対しては、自発的な対応が望ましいことはいうまでもないことから、まずできるだけ介入の程度が低いと思われるNPOなどによる民間支援から段階的に行い、その後、行政的な介入(例えば、再教育プログラムへの誘導(11)に進み、最終的には、実効性の確保のために司法命令的な介入(カウンセリング受診命令など)ということについても考える必要がある。


(11) 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号)第11条では、児童虐待を行った保護者について、指導を受ける義務が課され、指導を受けない場合には、知事に指導を受けるよう勧告する権限が与えられている。

③ 関係者の連携したサポート体制の構築
 少年非行の問題については、本検討会の参加メンバーからみてもわかるように、学校、警察、福祉、補導員、保護司、家庭裁判所、民間ボランティアなど多くの関係者がかかわっている。文部科学省の調査によると平成14年度に児童生徒の学内外での暴力行為の件数が2年連続で減少しているとされているが、その減少の要因として、文部科学省は、警察などの関係機関との連携強化などを挙げるとともに、自治体の取り組みとして、精神科医、臨床心理士、警察官らが特別チームを編成し暴力やいじめが深刻な学校を支援したことなどを取り上げている(12)。


(12) 日本経済新聞前掲注(9)

また、少年院では少年に関する情報交換が職員間で密であるため、問題行動はないとの検討会での意見もあった。これらの例からもわかるように、少年非行に対しては、関係者が連携しチームとなって対応していくこと、特に少年に対する情報を共有し、相互に連携をとりながら対応を考えるという仕組みづくりが必要であるということが検討会では何度も指摘された。文部科学省では、サポート・チームのモデルを作り、情報交換による連携から対処行動への連携を進めているが、このような取り組みを一層進めるべきである。このような取り組みは、問題行動の早期発見・対応のみならず、親の学校への反発を緩和したり、学校がすべての問題解決に当たらないといけないのではないかという危機感の緩和といった副次的な効果も期待される。ただ、サポート・チームなどによる情報交換が進んでいないとの意見も一方で検討会で出された。これは関係行政機関が横並び意識で運営され、どこがリーダーシップを執るかがはっきりしないからではないかと思われる。少年のためのサポート・チームづくりが役所の自己満足のためのものとならないことが必要であり、関係行政機関の枠を乗り越えるためにも、法制化などの方策を検討すべきである。また、「学校・警察連絡協議会」に補導員を積極的に参加させるようにすることや「少年補導センター」の相談機能の強化など既存の組織の再活性も必要である。
 このような関係者の連携には、情報の交換が重要であるが、関係者、特に行政機関相互の情報交換については、「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第58号)等により、利用目的以外の提供について制限がなされている(法第8条第2項第3号)し、公務員の守秘義務との関係もあるとの指摘も検討会でなされた。少年非行問題への対応方法の特性から本条項については弾力的に解釈されるべきであるし、必要であれば法的な整備も行うべきである。


2. 少年による犯罪が行われた場合の対応(13)

(13) 虞犯についての処置は除く

 犯罪が発生し、犯人が少年であることが判明した場合には、現行法では以下のような手続きがとられる。犯人が14歳未満 (触法少年) の場合には、刑罰の対象とならず、一部の特異な事件は家庭裁判所に送致されるが、ほとんどは児童福祉法上の措置(児童自立支援施設への入所、里親への委託等)がとられ事案は終了する。犯人が14歳以上の場合には、家庭裁判所に送致され、家庭裁判所では、審判自体を開始するかどうかを決定し(一部の凶悪事件については検察官に事件を逆送し刑事手続きがとられる)、審判を開始した場合には、保護処分(保護観察、児童自立支援施設等送致、少年院送致)とするか、処分しない(不処分)かが決定されることになる。
 最近の少年事件の低年齢化に対しては、犯人が14歳未満の場合の処置、刑事責任年齢の引き下げが問題とされる。また、少年事件の事実については、少年保護のために非公開が原則とされているが、少年事件の事実解明、捜査上の必要性等のための情報開示は必要な場合もある。これらについて以下の提言を行う。
① 触法少年の扱いについて
 少年事件でも犯人が14歳以上の場合には、警察が捜査を行った上で、最終的には家庭裁判所に送致される(14)。


 (14) 禁錮以上の刑に当たる罪については、検察官を経由することになる

警察はもともと捜査機関であるため、証拠の確保等により当該事件の事実関係の解明だけでなく、当該犯人が関係した他の事件の解明も可能である。一方、犯人が14歳未満(触法少年)の場合には、事件が警察によって発見されたとしても刑事事件とされないため、重大事件であっても、警察は、捜索、差押えなどの物的な強制処分や犯人に対する身柄確保はできず(15)、せいぜい任意で事情聴取を行った上で、児童相談所に通告することしかできない。

 (15) 児童福祉法による一時保護が可能なだけである

児童相談所から少年が送致された家庭裁判所は、少年の保護処分を決定するために、通告された事実を中心に少年の家庭環境を含めた事件について調査することになるが(少年法第8条)、それは、現行少年法の建前としては、少年の保護のための調査という側面に力点があり、捜査官が行う捜査とは自ずから異なる。しかしながら、最近は、少年事件についても否認事件が多くなってきており罪の意識を自覚しない少年が増えているとされる。少年法の目的である「性格の矯正」につながる自己責任を自覚させるためにも、十分な捜査あるいは捜査に準じた調査により証拠を確保し、事実を十分解明することが罪を認識させることにつながる。また、正確な審判のためにも証拠の確保は必要である。このことは少年自身の利益にもなる。このような手続き重視の流れは世界的なものであるとの指摘が検討会でもなされた。現行少年法でも、家庭裁判所は、実際の事件に関する、検証、押収又は捜索をすることができ、その際、警察官等に必要な援助をさせることができる(法第15,16条)とされているが、捜査機関ではない家庭裁判所の調査能力には自ずと限界がある。
 一般事件として捜査を行っていた警察が、犯人が14歳未満であるとわかった途端に、手を引かざるを得ないということは、関連事件の解明なども中途半端なものとなり、事件地域の住民の不安感は解消しない可能性がある。現行法の運用として、少年法第16条による援助規定を事実の解明という側面で活用してもよいが、より根本的には、触法事件についても警察が捜査あるいは捜査に準じた調査を行えるようすべきである。
 

② 刑事責任年齢の引き下げの是非
 少年犯罪は14歳から17歳が中心であり、触法事件への対処が十分であれば刑事責任年齢の引き下げの必要性は少ないといえる。長崎の12歳の少年による男児誘拐殺人事件など特異な事件だけをとりあげ、結論を急いだ議論をすべきでない。少年の精神的な成熟度などを含めた根本的かつ冷静な議論が必要である。少年法適用年齢についても同様である。
③ 少年事件の情報の開示
 前述のとおり、現在の少年法は、少年の保護のため情報はなるべく公開しないとの原則をとっている。しかしながら、事実究明は、加害少年に責任を認識させることになるとともに、誤処分を避けるなど少年自身のためにもなる。さらに、事実を明らかにすることは、過去の事件を教訓とし犯罪予防や子育て不安を解消することにもつながり、当該事件だけでなく少年事件全体の問題解決につながる面も多いと考える。このため、神戸小学生殺人事件以来、家庭裁判所も社会的関心を集めた事件については、少年法の趣旨に反しない限度という制約の中で、審判の決定の骨子、処分内容・理由等について公開する方向での運用がなされているという。このような情報開示への動きは促進すべきであり、家庭裁判所の審判結果は一定の限度はあるにしても公開すべきである。
 また、処分がなされた場合だけでなく、審判が不開始あるいは不処分となった場合についても、事件の性格によっては、地域に戻る少年の情報をフォローすべき場合もあると考えられる。このような情報の公開は、提供を受ける機関の権限の問題など一層困難な問題も含むが、保護観察官、警察職員、児童相談所職員など公務員にのみへの情報提供など一歩踏み込むことが必要ではないかと考える。
 さらに、少年事件の情報公開は、民事裁判による、親の監督責任を問う場合にも有効な手段となる。少年犯罪自体は、もちろん親の犯罪でなく、少年法の範囲内で少年自身に対して処分がなされることになるが、親については、別途、道義的責任のみならず民事の監督責任が生ずる場合がある。民事的な手段を通してでも親に子育ての責任を問うことは、規範の回復に少なからずつながると考える。民事裁判は被害者側の証拠収集が困難であることから、少年審判事件の証拠の閲覧・謄写は有効な証拠収集の手段となる。平成12年に改正された現行少年法第5条の2では、被害者等が損害賠償請求等を行う場合であって、少年の健全育成への影響、事件の性質等を考慮して相当と認めるときは事件の非行事実についての記録の閲覧・謄写ができるとされているが、その適切な運用が期待される。
 観点は異なるが、情報の開示については、捜査上の必要性も大きい。例えば、凶悪な犯人が逃亡している場合に、犯人が少年だからといって容貌等を公開しないことは、更なる犯罪を引き起こす可能性を大きくする。少年事件の公開手配については、現行の規定でもできなくはないと思われるが、運用上過度に萎縮しているのではないかとの意見もある。このような運用がなされているのであれば早急に見直すべきである。
④簡易送致の問題
新聞記事によると、ここ数ヶ月だけで、埼玉、岐阜、神奈川県警において、少年事件の処理の放置が見つかった(16)。


(16) 日本経済新聞2003年6月17日、6月24日、8月6日

事件自体は許されるべきことではないが、処理しなければならない少年事件が多くなってきていることの現れではないかと思われる。少年事件は、全件を家庭裁判所に送致することとされているため(全件送致主義)、警察にとっては非常に手間がかかる作業を要する。ただし、少年事件にも、捜査した事件が軽微であり、当該少年の性格・環境などから判断して、保護処分などを必要としない場合と考えられ、検察官・家庭裁判所が指定したものについては、一ヶ月ごとに一括して検察官・家庭裁判所に送致できることとされている簡易送致という制度がある。簡易送致は事件の処理を効率化し、重大事件や真に必要な少年に対する指導などに警察の資源を投入することができるが、一方で、審判不開始を前提とする制度であるため、少年に対する感化力に問題を生じさせるのではないかとの懸念の声もないではない。成人の刑事事件では、事件を検察官に送検せず実質上の手続きを警察で終わらせる微罪処分という制度が定められている。これは警察の感化力を信頼したものである。少年の審判不開始に対する意識、警察の少年に対する感化力・指導力などを踏まえ、簡易送致の要件を見直すべきか早急に検討を行うべきである。

3.審判・処遇の扱いについて
 前述のように、少年の刑事事件は全件が家庭裁判所に送致される。家庭裁判所に送致された後の処置をみると、平成14年では、審判不開始が72%、不処分が10%となっている。もちろん審判不開始、不処分となるのは、それまでの手続の過程で少年が改心し手続が不要となったとされていることが建前であるし、不開始、不処分となる過程で、家庭裁判所が面接などを通じ十分な保護的な措置を行なった結果であるとの意見も検討会では出された。しかし、実質的な処分を受けないようにするマニュアルが犯罪少年、非行少年の中で回覧されている事実があることも検討会の意見にあった。このような例から考えると、現在のように処分を行なわないことが一般化していることが、少年に対する犯罪の抑止効果を失わせている面があるのではないかとも考えられる。また保護処分とされてもそのほとんどは保護観察とされ、家庭裁判所に送致された少年の95%は少年院等の施設に送致されずに地域社会で立ち直りを模索することになるのである。地域社会のつながりが薄くなり、地域社会における教育力や規範意識醸成力が低下している中では、処遇のあり方についても検討すべき課題が大きい。そこで以下の提言を行う。
①施設処遇の強化
もちろん少年院は刑事施設ではなく健全な生活習慣を身に付けるとともに、各種教育が行われる施設であるし、児童自立支援施設は不良行為をなし、またはなす虞のある少年を入所あるいは保護者の下から通所させて自立を促す福祉施設である。つまり、これらの施設は罰を与えるための施設ではなく、ここにいたからといって責任を果たしたというわけではないというのが建前である。
少年院では、少年を収容して諸外国からも注目されるほどの強力かつ濃密な指導、例えば、生活面では、悪い少年同士が情報交換できないようにする工夫としてみだりな私語を禁止するといったことを行っている。そのため、高い教育力があり、少年院を出た少年の再犯率は低いとされている。また、少年院の定員に対する収容人員の収容率は89%(平成14年末)である(17)。


 (17) ただし、長期収容の施設は過剰収容との問題も一方であることは事実である

少年に対する教育効果及び抑止効果の観点からも少年院での処遇の強化を高めるべきである。ただ、少年院に入ってくる少年の増加に比して職員数の伸びは低いなど少年犯罪の実態と行政の動きが乖離している。このような行政のあり方は非常に問題である。
 少年院については、現行法では14歳以上の少年しか入所できないことになっている(少年院法第2条)。このため触法少年は、犯罪が重大であっても、少年院での処遇は不可能である。たまたま年齢が14歳未満であったというだけで教育効果の高い少年院での処遇を否定すべきでない。年齢で対応を分けるのではなく処遇の必要性での弾力的対応ができるように少年院に入所できる年齢の引き下げ、あるいは触法少年だけの施設の設置ということも考えてもよい。
 児童自立支援施設は、児童福祉法で規定される福祉施設であり(児童福祉法第44条)、小舎により夫婦が住み込みで少年を指導する開放型の施設であることが特徴となっている。この施設を、少年法の目的である「性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分」のための施設として利用することについては大きな異論があるであろう。しかし、施設の機能自体は、生活指導であり少年院と大差はない。これらの施設が少年院とともに、非行少年に対して十分な機能を果たすのであれば、これら施設による処遇を行うことは、保護観察の処遇より、指導効果は高くかつ非行・犯罪抑止の効果も高めることができると思われる。
 しかしながら、児童自立支援施設への入所といっても、児童自立支援施設自体の維持、職員の確保も困難となっており、小舎から大舎、夫婦住み込みから交代制へと、きめ細かな指導自体ができにくくなっているという。このような現状では、施設入所という名前はついていても、その機能は十分には果たされていないといってよい。特に、非行度の高まった少年の場合には、これらの施設での更生保護は無理であろう。また、開放型施設の場合には、少年が逃げ出し易く、一旦逃げ出すと、保護者が施設に戻すことを拒否する例もあるとの意見が検討会であった。児童自立支援施設の活用のためには、全国に2ヶ所しかない国立施設に附属されている、行動の自由の制限が可能な施設を充実する必要がある。さらに指導の充実のためには、国公立・私立施設を問わず、専門家の導入、少年院で使われている効果のある指導方法の取り入れなどによる指導力の強化が必要である。
② 保護観察の改善
 我が国の保護処分の大半は保護観察である(18)。


(18) 保護観察の具体的内容は、一定の住居居住、善行保持、犯罪性のある者・素行不良者と交際しないこと、転居・長期旅行には許可を求めることなどの遵守事項を守るようにと指導・監督すること。

保護観察は保護観察官という更生保護の専門家の下でなされるが、全国に1000人程度しかいない。そのかわりを、全国で約5万人の保護司が成人犯罪者も含め7万件(環境調整も含めると10万件)もの事件を扱っている。保護司は保護処分としての処遇を通じた少年犯罪予防はもちろん地域における少年非行問題全般に積極的な関係を持つことが必要であるといわれている。しかしながら、社会のつながりが薄くなっている中で、保護司の高齢化問題や、保護司の中にも、地域における少年の健全育成のための協議会等に出席しないなど積極性に欠ける者がいるなど、制度を改善すべき点は多い。例えば、戦後からBBS(Big Brothers & Sisters)制度など保護司とともに、民間ボランティアが保護司の活動に参加する仕組みもあったが、地域のつながりが薄くなるなかで、保護司との信頼関係の醸成ができていないことや保護司との連携が十分でないなどその活動は停滞しているという。保護処分の中心が保護観察である限り、意識の高いボランティア団体などとの連携により、地域の教育力を高めるような方向で保護司などの活動を活発化させる必要があり、保護司の選考方法も含め検討すべきである。
③ 処遇の多様化
 保護処分は、少年院送致、児童自立支援施設または児童養護施設(19)送致、保護観察だけが制度上規定されているが、これまでも、少年の非行性や置かれている環境に応じた適切な処遇が家庭裁判所ではとられているという。


(19) 保護者のいない児童、虐待されている児童、その他環境上擁護を要する児童を入所させ、これを養護し、あわせて
その自立を支援することを目的とする施設。


例えば、試験観察期間中に特別養護老人ホームや保育園でのボランティアなどの社会奉仕活動に従事させることなどもなされている。この社会奉仕活動への従事については、諸外国でも少年の改心にかなりの有効性があるとされている。社会奉仕活動への従事は家庭裁判所調査官との信頼関係ができた後にボランティアとしてやらせてはじめて効果がでるものであるから命令的にやらせることは効果が少ないのではないかとの意見も検討会ではあったが、効果があるとされるものは、どのようなかたちでもとにかく行ってみることが非行防止の第一歩となると考える。また、社会奉仕活動もサンクションの一部と考えさせることも必要かもしれない。社会奉仕活動に従事させる際には、事故が発生しないための工夫、協力機関の確保、少年のみならず親にも参加を行わせるなどの工夫、不良少年のグループ化を防ぐことなど効果のあがるような各種工夫がなされることなどの前提条件が整うことが必要であるが、その上で、保護処分の執行の過程で社会奉仕活動を命じて行わせるような仕組みを考えるべきである。
 また、家庭裁判所で試験観察期間中に社会奉仕命令活動を行わせているとの例があることは上述したが、これは、試験観察期間中の社会奉仕活動で改心がみられたら、その後、保護処分がなされないかもしれないということも意味する。これは刑法でいう執行猶予の処分に近い。試験観察期間や保護観察期間を通して、遵守事項を守らない場合には、処分というサンクションがなされるという執行猶予的な考え方での制度の運用も考えるべきである。
④ 処分後のサポート体制の強化
 少年院、児童自立支援施設を出た後に家庭に戻ることが難しい少年をサポートしなければ、少年たちは、また以前の不良グループ仲間や暴力団にさえ戻ってしまうことがあり、せっかくの保護措置が意味を失う。このため、更生保護施設や自立援助ホームなどの充実を行うべきである(20)。



(20) 少年院の場合には、出院はほとんどが仮退院であり、その場合少年は保護観察の対象となる。少年院出院の場合には、処遇の一層の強化という観点から、これらの充実が必要ということになる。

また、非行や被害者の問題に対して親や教師などがその事実に対して向き合うことが本当の問題の解決となるが、実際の事件を見ていると、その勇気が出せないがゆえに、親や教師の指導を通じた規範意識というものが少年に生まれず、更生が図られていないように思われる。事実に向き合う勇気は個人の問題ではあるが、ボランティア組織による活動がそれを手助けしている例も検討会で示された。このような動きについても政府は必要な援助を行ってよいと考えられる。
4.被害者との関係
 被害者との関係については、平成12年の少年法改正で、被害者等による記録の閲覧及び謄写(第5条の2)、被害者等の申出による意見聴取(第9条の2)が認められ、また、裁判官、家庭裁判所調査官の意見聴取も実際には行われているという。しかし、否認事件が多くなる中、事実を明確にすることの必要性が高まっていること、被害者の事実を知りたい、加害者の弁明に反論したいとの被害者側の気持ちには十分応えていないとの意見が検討会でだされた。これは少年審判自体が保護のための制度であることや家庭裁判所が通常裁判所と物理的にも異なる審判廷であることも要因としてあるのではないかとの指摘が検討会で示された。平成12年の少年法の改正時期とほぼ同時に、犯罪被害者の保護を図るための刑事訴訟法等の改正がなされているが、上述のような点にかんがみ、家庭裁判所には、犯罪被害者の気持ちに配慮した少年法などの運用を期待する。
 加害者の被害者に対する謝罪は、罪を悔い改めることの基本である。ただ、謝罪を強制することは意味がないし、法的にも困難な面がある。強制しても悔い改めたかどうかわからないし、また、加害者も被害者へ謝罪したくても被害者が加害者と面会したくない場合もあるという。実際には、謝罪の段取りづくりといったことから行わなければならない。このようなことも家庭裁判所に期待すべき機能でないかと思われる。それに関連して、世界的には修復的司法との考え方があり(21)(22)、修復的司法活動によって犯罪が大幅に減ったという研究もあるという(23)。このような制度が我が国にも応用できるか検討すべきである。


(21) これまでの裁判は、国家がその処分を一方的に決定するものであったのに対し、そこに被害者との関係を取り込もうとの試み。これは、第一に犯罪被害者の原状 回復を、第二に犯罪者に犯行の理由を説明させ、同時にコミュニティへの復帰を可能にすることを目的としている。被害者ら当事者との関係を修復してこそ、加 害少年の教育や更生につながるという新しい考え方に基づく。ただし、加害少年の謝罪や反省を促し、被害者感情の回復が予想される半面、罰を求める被害者に よる厳罰化を求める危険性もあるという。
(22) 1999年のイギリスの「少年司法および犯罪証拠法」などは、裁判制度のなかに修復的プロセスを折り込んでいる。
(23) 「POLING TODAY」(2000年冬号)



5.おわりに
 本報告書は、内閣総理大臣、内閣官房長官からの指示を受け私が主宰することになった「少年非行対策のための検討会」で議論された内容を踏まえ、私の考えに基づき整理し、取りまとめたものである。このため、本報告書の内容は、検討会の委員の総意を取りまとめたものでもないし、まして政府の見解でもない。また、検討会の時間の制約から、少年非行対策のすべての論点を取り上げることはできなかったし、議論をしたが十分でないと判断したものについては割愛してもいる。例えば、我が国社会の国際化に伴い急増している来日外国人少年による犯罪の問題について、外国人労働者の受け入れのあり方やその子弟の教育、福祉等との関係などは十分議論できなかった。そのように不十分なものであることは知りながらも、最近の少年犯罪の状況を憂い、あえてこの報告書を世に問い、国民的な議論の参考としたいと考えた。取りまとめの責任については、一切、主宰者である私にある。本報告書についての有意義な議論を期待したい。

 最後に、本報告書の取りまとめの過程で、少年院、児童自立支援施設を訪れ、崇高な仕事に携わっている方々の姿に接することができたことを申し添えたい。 

 国務大臣 鴻池 祥肇

少年非行対策のための検討会構成員及び協力者
(関係行政機関委員)
大坪 正彦 内閣府審議官
山本 信一郎 内閣府政策統括官(総合企画調整担当)
瀬川 勝久 警察庁生活安全局長
樋渡 利秋 法務省刑事局長
田中 壮一郎 文部科学省スポーツ・青少年局長
伍藤 忠春 厚生労働省雇用均等・児童家庭局長
岩田 喜美枝前厚生労働省雇用均等・児童家庭局長
(有識者委員)
飯田 英男 関東学院大学教授・弁護士
井内 清満 千葉南警察署少年補導員・少年指導委員
志村 文穂 東京都江戸川区立南葛飾第二中学校校長
津崎 哲郎 大阪市中央児童相談所長
津富 宏 静岡県立大学助教授
原口 幹雄 東京家政学院大学教授
前田 雅英 東京都立大学教授・法学部長
(協力者)
原 哲也 警視庁生活安全部少年育成課長
松村 徹 最高裁判所事務総局家庭局第二課長
岩田 昌司 全国保護司連盟副会長
武 るり子 少年犯罪被害当事者の会代表
能重 真作 「非行」と向き合う親たちの会代表
羽生 健二 民放連報道問題研究部会幹事
(東京放送報道局編集主幹)
石井 修平 民放連放送と青少年問題研究部会幹事
(日本テレビ放送網審査室長兼法務部長)

「少年非行対策のための検討会」開催状況
第1回(7月15日) 各省庁の取組状況の説明
第2回(7月28日) 検討① 「過去の重大な少年犯罪の事例から見る非行少年の生育環境」
<発表者>
・警察庁生活安全局長
・原口幹雄教授
第3回(8月7日) 検討② 「補導、事件捜査・処理に関する問題点」
<ゲスト>
・警視庁少年育成課長
・最高裁家庭局第二課長
第4回(8月19日) 検討③ 「非行少年処遇に関する問題点」
<ゲスト>
・最高裁家庭局第二課長
・全国保護司連盟副会長
第5回(8月29日) 検討④ 「その他の論点----当事者の立場から考える少年非行対策、少年事件の取材・報道に関する問題点、その他の課題」
<ゲスト>
・少年犯罪被害当事者の会代表
・「非行」と向き合う親たちの会代表
・民放連報道問題研究部幹事(東京放送報道局編集主幹)
・民放連放送と青少年問題研究部会幹事
(日本テレビ放送網審査室長兼法務部長)
 

第6回(9月12日) 「少年非行対策のための提案」について
「少年非行対策のための提案」に関する意見募集
「少年非行対策のための提案」について御意見がございましたら、下記連絡先まで必要事項(住所、氏名、電話番号)を御記入の上、提出して下さい。
なお、電話による御意見は、お受けしておりませんので、御了承願います。
 

御意見提出先
(郵送)住所 〒100-8970
東京都千代田区霞が関3-1-1
内閣府政策統括官(総合企画調整担当)青少年調整第2担当
(電子メール)ikusei@op.cao.go.jp


※ 文字化けを防ぐため、半角カタカナ、丸数字、特殊文字は使用不可
募集期間:平成15年10月3日(金)~平成15年10月17日(金)
 

その他
○ 頂いた御意見は、住所、電話番号等の連絡先を除き、公表することがあります。
(公表の際に匿名を希望される場合には、その旨を明記して下さい。)
○ 頂いた御意見に対する個別の回答はいたしかねますので、御了承下さい。



「少年非行対策のための提案」に対する意見書
2003年10月16日
日本弁護士連合会


 本意見書は、時間の制約上、「少年非行対策のための提案」の主要な問題点について当連合会の意見を述べるものであり、各論的に示されている個々の対策のすべてにつき網羅的に意見を述べるものではない。

第1 意見の趣旨
 政府の青少年育成推進本部は、鴻池祥肇前国務大臣提案にかかる「少年非行対策のための提案」につき、これを「青少年育成施策大綱」に盛り込むような取り扱いをすべきでない。


第2 意見の理由


1.「少年非行対策のための提案」が出された経緯の問題点
 本年9月18日、鴻池祥肇国務大臣(当時)は、「少年非行対策のための提案」(以下「提案」という)を発表し、小泉純一郎首相に報告した。これに対し、首相は、本年10月にも取りまとめが見込まれる「青少年育成施策大綱」(以下「大綱」という)に盛り込めるものは盛り込むように指示したと報道されている。
 しかしながら、そもそも「大綱」は、内閣府が2002年4月から開催した「青少年の育成に関する有識者懇談会」が本年4月に取りまとめた「青少年の育成に関する有識者懇談会報告書」(以下「報告書」という)に基づき、青少年育成推進本部(青少年の育成に関する施策について関係行政機関相互間の緊密な連絡を確保するとともに、総合的かつ効果的な推進を図るため、内閣総理大臣を本部長とし全閣僚を構成員として、本年6月の閣議決定により設置された)が6月から既に取りまとめ作業に入っていたものである。
 ところが、7月に長崎市の幼児誘拐殺人事件で12歳の少年が補導されたことを背景に、鴻池国務大臣(当時)は、この「大綱」案を「スローガンばかりで国民から非難される」と批判し(報道による)、急遽「少年非行対策のための検討会」の設置を提案、主宰し、7月15日から9月12日まで、わずか2ヶ月、計6回の開催の後、「提案」を発表した。
 しかも、「提案」そのものに記載されているとおり、その内容は鴻池前国務大臣が「私の考えに基づき整理し、取りまとめたもの」であって、「検討会の委員の総意をとりまとめたものでもないし、まして政府の見解でもない」というのである。その上、後述するように、「報告書」と「提案」とでは、「大綱」の大前提となるべき基本的な青少年観が真っ向から対立すると言っても過言でなく、青少年に対する施策の方向性もまったく異なっている。
 上記のような「提案」が出された経緯と内容にかんがみれば、「提案」は、それ自体認めるとおり「国民的な議論の参考」とするのはともかく、少なくとも「報告書」とはまったく次元の異なるものであるから、直ちにこれを「大綱」に盛り込むというような扱いをすべきではない。
 

2.国連・子どもの権利委員会の勧告及び提案の完全実施こそ重要
 1998年6月5日、国連・子どもの権利委員会は日本に関する総括所見を採択し、日本政府に対し子どもの権利条約に沿った施策を実施するように22項目にわたる勧告と提案を行った(以下「1998年勧告」という)。少年司法制度に関しては、条約およびペキンルールス等の国連基準に照らして見直しを図るよう勧告し、ことに身柄の拘束に代わる措置の創設、監視および不服申立手続ならびに代用監獄の実態に特別な配慮が払われるべきであるとしている。同委員会は、2004年1月には「1998年勧告」に対する日本政府の施策の実施状況について評価を行う予定である。しかし、政府は、勧告を受けて以後、これに沿った積極的施策をまったくと言ってよいほど実施していない。
 政府の青少年育成推進本部が「次代を担う青少年の育成に関する施策」を作成するにあたり第一に留意しなければならないのは、「1998年勧告」に沿った積極的施策を盛り込むことである。そのうえで、前記「報告書」に示された有識者の意見をもとに、子ども自身や教育、福祉等の現場の声を広く聴取するなどして、国民的な議論を踏まえた「大綱」を策定すべきである。
 

3.「提案」の青少年観・少年犯罪観の問題点(「はじめに」について)
(1) 少年犯罪の現状に対する誤った認識
ア.「報告書」と異なる現状認識
 「提案」は、「はじめに」において「治安の悪化に対する不安感が増す中、特に少年犯罪への対応が、今、政府に強く求められている」根拠として、全刑法犯のうち4割、街頭犯罪の7割が少年犯罪であり、①「少年犯罪は戦後第四のピークを迎えた」、②「少年犯罪の凶悪化・低年齢化が進んで」いるとの少年犯罪の現状認識を示している。
 しかしながら、「報告書」の「補論:少年犯罪について」では上記のような現状認識は示されてはいない。「報告書」は、多様な罪種ごとに状況が異なること、長期傾向を見るか短期傾向をみるかにより評価が異なることなどを理由に「少年犯罪が増加しているか減少しているか、あるいは、凶悪化しているか否かといった現状認識については見解が分かれている」と述べ、2つの見方を示している。
 一つは、少年の刑法犯検挙人員の人口比(同年齢層の人口1,000人当たりの検挙人員)について増加しているとの認識に立つ見解である。すなわち少年の検挙人員の人口比は「最近の10年程度に着目すれば、増加傾向を示しているといえる」との立場である。しかし、この立場は、増加傾向という評価の前提として「少年の検挙人員の人口比は、その時々の社会情勢等を反映して増減を繰り返している。成人の人口比はおおむね一貫して減少してきたのに対し、少年の人口比は長期的に一貫した傾向というものはみられない」と述べ、少年犯罪は少年自身の変化というよりも社会情勢に応じて増減しているという分析を行っている。
 他方、少年犯罪が増加しているとの評価をしない立場の見解は「戦後の混乱期には、犯罪が起こっても現代ほど的確に把握されなかったであろうといったことや、例えばかつての村社会において顔見知りの少年が畑から作物を盗んでも警察へ届け出る場合は少なかっただろうといったことも考えられる。このため、都市化がかなり進む以前はいわゆる暗数が大きいと推測され、現代の数値を深刻に見過ぎない方がよいのではないか」と指摘している。
 このように「報告書」は、少年犯罪が増加しているか否かについては結論を出しておらず、しかも、増加しているとの評価を行う立場も、近時10年間の増加傾向を指摘しているにとどまるのであり、「提案」のような「少年犯罪は戦後第四のピークを迎えた」等という危機的現状認識はどこにも示されていない。
 むしろ、「報告書」では、18歳未満の少年の検挙人員の人口比について、アメリカの2分の1、ドイツの5分の1であり、特に「殺人及び強盗では極めて低くなっている」との指摘がなされており、「提案」のように少年犯罪が治安を悪化させ、政府の治安対策強化が強く求められているといった国民の不安を煽るがごとき現状認識はまったく示されていないのである。


イ.「少年犯罪の凶悪化・低年齢化」なる現状認識について
 「提案」は、「沖縄の中学二年生による殺害事件や長崎の12歳の少年による男児誘拐殺人事件など、少年犯罪の凶悪化・低年齢化が進んで」いるとの現状認識を示している。上記の稀な2つの事件を根拠に少年犯罪の凶悪化・低年齢化が進んでいるなどという一般的傾向評価を行うことは誤りである。
 「報告書」の凶悪犯に関する分析も「増減については、平成に入るまでは、特に16~17歳、18~19歳の低下により全体の水準が低下した」と述べており、低年齢化についての指摘はなされていない。また、「報告書」の上記分析は、マスコミ等で喧伝されている「凶悪犯の低年齢化」なるものの実像は、16歳、17歳の中間少年や18歳、19歳の年長少年の凶悪犯検挙人員が減少してきたために14歳以下の少年の割合が高まったように見えるに過ぎないことも示唆している。
 戦後、14歳未満の少年による殺人事件は他にも発生したことがあるが、「凶悪化・低年齢化」などという評価がなされたことはない。「提案」のように「凶悪化・低年齢化」などと安易に一般化することは、社会の不安をいたずらに煽り、青少年に対する誤った施策を導くことに繋がる。冷静かつ慎重に受け止めるべきことを強く指摘したい。
 なお、「提案」の「はじめに」は「街頭犯罪のうち7割が少年犯罪」と指摘し、少年が街頭で凶悪粗暴行為に及ぶ数が増えているかのような印象を与えている。しかしながら、警察庁生活安全局少年課作成の「少年非行等の概要(平成15年上半期)」によれば、「街頭犯罪」で検挙された少年の約9割は、車上狙い、オートバイ盗、部品盗、自動車盗、自転車盗、自販機荒しといった非粗暴犯によって占められており、少年が街頭において凶悪粗暴犯罪を多発させ治安を悪化させていることを示すような統計にはなっていないことを付言する。


ウ.少年犯罪の動向と少年司法に対する総体的評価
 「報告書」は、我が国の少年犯罪の動向及び刑事政策対応について重要な指摘を行っている。すなわち、「報告書」は、生まれた年代別の犯罪傾向に関して次のように指摘する。
 「比較的検挙人員の人口比が高かった世代も含めほとんどの世代において、18~ 19歳から成人期にかけて犯罪が減少し落ち着いていく傾向にある。10代半ばの時期に犯罪を犯した少年の多くが、成長につれて心理的にも落ち着き、事件を起こさなくなっていく様子がうかがわれる」
 この分析が示すとおり、我が国の少年司法システムは概ね良好に機能しており、少年犯罪の現状から治安政策強化が課題とされるような状況は存在しない。少年司法システムが現在の保護主義のもとでさらに発展充実されるべきは当然であるとしても、これを否定するような事態はなんら存在しないのである。


(2)「少年は加害者であると同時に被害者でもある」との見方の否定
 「提案」は、「現在の少年犯罪・非行の中心は『非社会型』『遊び型』非行といわれ、無力感からのがれるために享楽的雰囲気に身を委ね、弱者をいじめることが特徴であるといわれている。(中略)戦後に旧少年法が作られたときと同様の意味で、社会が悪い、そして少年は加害者であると同時に被害者でもあるといえるのか疑問があると言わざるを得ない」と述べている。
 これは、「報告書」が「大人たちの眉をひそめさせる今の青少年の行動には、当の大人たちが若かったころにも存在していたものもあるし、また、昔の青少年と異なる行動だからといって直ちに非難すべきものでもないだろう」、「青少年にみられる挑戦の忌避は、彼ら自身の問題というよりむしろ失敗と再挑戦を許容しない今日の我々大人たちの社会の反映とみることもできる」と述べているのと対照的である。
 非行をおかす少年に親から虐待されて育った経験をもつ者が多いことは、当連合会が2001年に行ったアンケート調査(一般高校生群に比較し犯罪少年群は被虐待体験を持つ割合が高い)、法務省法務総合研究所が行った調査(少年院在院中の子どもの約50%に虐待経験あり)等により明らかである。
 非行は、少年の資質と少年のおかれた環境の相関関係により生ずる。

なかでも、少年の成長を支える家庭、学校、地域、その他の環境がもたらす影響が大きい。非行をおかす少年は、家庭崩壊や貧困あるいは過度に競争的な学校教育の中で(この点は、「1998年勧告」が改革するように述べている)、人間としての尊厳が保障されず、成長過程において不可避的に生ずる不満、悩み、情緒不安に対し、適切な大人の指導や援助を受けられなかった者がほとんどである。
それ故に、非行対策として何よりも必要なのは、
①大人が、少年の悩みや不満を受容し聞き取る姿勢をもつこと、少年の参加と意見表明を保障し、自己決定を可能な限り尊重して、主体性の確立を促すこと、そのなかでこそ、少年の自律性と他者の人権を尊重するという意識が育まれるという観点を重視すること、
②上記観点に立った大人の側の対応を保障するために、精神的にもゆとりのある家庭、学校、職場、地域づくりをすすめること、
③上記の家庭、学校、地域等の実現を援助するために、国や自治体が福祉、教育、雇用政策を積極的にすすめ、地域社会の人々とともに、少年の成長を支える場と環境づくりをすすめることである。
 このことは、1985年に国連が採択した「少年司法運営に関する国連最低基準規則」(ペキンルールス)1条(基本的展望)、1990年の「少年非行の防止に関する国連ガイドライン」(リヤドガイドライン)にもうたわれている。
 「報告書」もまた、青少年の健全育成を「青少年が『今を充実して生きること』とともに、『将来に向かって、試行錯誤の過程を経つつ、一人前の大人へと成長していくこと』を支援するという、長い時間軸をもった、より総合的な営み」と位置づけた上で、「従来、青少年に関する問題は、例えば、育児や雇用問題については厚生労働省、学力については文部科学省、少年犯罪については警察庁や法務省などが中心となってそれぞれ対応してきた。しかし、現出する新たな問題は、共通する今日の社会経済状況を背景にして相互に関連している。したがって、その対応についても教育、福祉、雇用、社会環境などの分野をまたがって有機的に連携・協力して行われる必要がある」と述べ、この視点を尊重している。
 「提案」が「少年は加害者であると同時に被害者でもある」との見方に疑問を投げかけ、これを否定しようとしていることは、上記視点の否定につながり、少年非行対策の方向性を大きく誤らせかねないものである。
(3)少年法の根本理念(1条)を覆す「公衆保護」目的
 「提案」は、「国民の十二分な議論が必要であり直ちにできるものではない」との前提に立ちつつも、少年法1条が「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う……」ことを同法の目的としていることに対し、「保護という枠組みのままで、親も含め自己責任を自覚することには無理があり、『罰』という形であるかどうかは別としても、なんらかの形で『悪いことをした』ということを加害者に積極的にわからせる必要性は高い…」とし、アメリカの例を引きつつ、「もはや従来の考え方の延長で行っていては国民の治安維持に対する期待には応えられない」と、「『少年保護』とならんで『少年犯罪から公衆を保護すること』を少年法の目的とすること」につき議論を開始すべきことを発案している。
 この発案は、まさに少年司法を含む国の少年非行対策の根幹に関わるものであり、万一これが肯定されれば、これまでの少年司法・非行対策がその根底から覆されかねない重大な発案である。このような重大な発案をするには、本来、まずもって矯正段階を含む現在の少年司法が非行対策として功を奏しているのか否かが実証的に研究され、その結果から見てこれまでの保護主義に変更を加えなければならない理由があるのか否かが判断されるべきである。
 ところが、鴻池前国務大臣は、何らこのような実証的研究もなしに、むしろ前記のとおり「報告書」とはまったく異なる誤った現状認識をもとに発案しているのであって、青少年育成推進本部担当たる国務大臣が軽々にこのような発案をすることに、驚きと疑問を禁じ得ない。
 そもそもアメリカの少年法が公衆の保護をその目的に加え、厳罰化の一途をたどった結果については、犯罪抑止という一般予防目的の達成に成功しなかったばかりか、特別予防の面においても、過剰な施設収容が少年の社会復帰を困難にさせ、むしろ再非行率を高める結果さえ生んでいると批判的に評価されている(日本評論社、葛野尋之著「少年司法の再構築」)。これに対し、近年、ドイツ、イギリスなどでは、実証的な調査に基づき、応報刑から改善更生のための施策充実への転換が図られている。鴻池前国務大臣の発案は、これらの国の経験と教訓に逆行するものと言わなければならない。
 なお、少年法は決して社会の安全に無関心なわけではない。少年法は、未成熟故に非行をおかした少年に対して保護処分によって教育し、立ち直らせて、社会に再統合していくことを通じて社会の安全に寄与するという刑事政策的役割を担っており、それは概ね良好に機能してきたのである。
(4)健全育成を損なう「非公開原則」(少年法22条2項、61条)の見直し
 「提案」は、「公衆保護目的」と同様、「国民の十二分な議論が必要であり直ちにできるものではない」としながらも、「非公開原則」の見直しにつき議論を開始すべきことを発案している。
 しかしながら、「非公開原則」は、少年の立ち直りと社会への再統合に欠かせない、少年法の根幹をなす原則であって、これを見直すことは、保護主義の放棄に等しい。「提案」が言う「過去の事件を教訓に」するための情報開示そのものは、氏名・住所等少年を特定する情報を要せず、既に神戸須磨事件、佐賀バスジャック事件、長崎幼児誘拐殺人事件等、近年の重大な少年事件において、家庭裁判所の運用上の努力によってかなりの程度まで開示されている実情にある。また、被害者への情報の開示については、2000年の「改正」で、少年法5条の2に基づき、裁判所の裁量により被害者に少年事件記録の閲覧・謄写が認められるようになっており、審判の要旨についても必要に応じ告げられている。また、被害者が審判廷に入ることも、意見陳述の機会、あるいは少年審判規則29条に基づく裁判官の裁量により、必要があれば認められる。
 これらを踏まえつつ、なおかつ「非公開原則」の見直しを言うとすれば、結局、少年審判を被害者以外の一般市民やメディアに対して公開したり、少年の氏名・住所等、個人を特定する情報を開示することにその意味があることになる。このような一般的公開は、まさに少年に犯罪者としての烙印を押して立ち直りを阻害し、地域社会への復帰を困難にするもので、保護主義の理念に真っ向から反するものと言わなければならない。
 「提案」は、2「少年による犯罪が行われた場合の対応」の③「少年事件の情報の開示」において、

(a)審判が不開始あるいは不処分となった場合についても、保護観察官、警察職員、児童相談所職員など公務員のみへの情報提供など一歩踏み込むことや、
(b)「凶悪な犯人が逃亡している場合に、犯人が少年だからといって容貌等を公開しないことは、更なる犯罪を引き起こす可能性を大きくする」との理由から、「少年事件の公開手配」を見直すことを提案している。
 (a)は、そもそも「審判不開始」や「不処分」と保護処分の法律上の差異を度外視した提案であるとともに、本意見書の6に後述するとおり、少年に対し監視のための連携を強めようとするものであって認められない。
 (b)は、成人の場合でさえ、捜査段階での公開手配には「無罪の推定」との関係で高度の慎重さが要求されるところ、健全育成を目指すべき少年の場合に容貌等の公開を含む公開手配を提言するなど、甚だしく少年の人権と少年法の理念を軽視するものと言わなければならない。少年事件においては、共犯事件が多く、共犯少年の供述においても被害者の供述においても、当該非行に誰がどのように関わっていたかを判別することが困難である場合が多い。また、共犯とされる少年たちの判断能力の未熟さや迎合しやすさ、適正を欠いた捜査などの結果、実際には非行に加担していない少年を共犯と名指しする例も珍しくない。万一、少年がえん罪によって公開手配された場合の取り返しのつかない弊害を考えれば、少年の公開手配はむしろ禁じられるべきである。
 

4.触法少年に対する警察の捜査の問題性
(1)警察法・刑事訴訟法を無視する触法事件の捜査
 「提案」は、「触法事件についても警察が捜査あるいは捜査に準じた調査を行えるようすべきである」と言う。
 ところで、警察法2条1項は、警察の責務を「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ること」と規定し、同条2項は、「警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない」と規定している。
 警察の責務のうち、犯罪の捜査と被疑者の逮捕は「司法警察」と呼ばれ、その他の責務は「行政警察」と呼ばれる。「司法警察」は、特定の犯罪に対する刑罰権の作用であり、刑事訴訟法の適用を受け、刑事訴訟法189条1項に基づき、司法警察職員たる警察官によって遂行される。そして、同条2項は、「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする」と規定しているのである。
 以上のとおり、司法警察職員の捜査権限は、あくまでも犯罪捜査の目的に限って付与されているものである。したがって、警察の捜査権限が及ぶのは、犯罪が成立する可能性がある場合に限られる。すなわち、およそ公訴提起の可能性がない場合には、警察の捜査はできないというのが刑事訴訟法の大原則である。けだし、警察の捜査には、被疑者本人はもちろん、その家族、学校関係者、職場関係者はもとより、聞き込み調査の対象になる人も含めて、広範な国民の身体の自由、財産権、プライバシー、平穏な生活等を侵害する危険が内在しているからである。
 これに対し、14歳未満の少年の触法事件は、刑事責任年齢が14歳以上であることから、そもそも犯罪として成立する可能性が無く、警察法2条2項の謙抑主義からしても、捜査権限を行使できないことは当然であり、これを触法事件にまで及ぼそうとすることは、同項が禁じる権限の濫用に当たると言っても過言でない。
したがって、14歳未満の少年について、警察に捜査類似の権限を付与する提案は、刑事訴訟法の大原則を壊し、少年のみならず捜査の対象となる国民の人権保障に重大な脅威を与えるものと言わなければならない。
(2)「提案」に欠ける少年法と児童福祉法の整合的理解
 触法少年が家庭裁判所の審判に付せられるためには、児童相談所長等が少年を家庭裁判所に送致することが必要とされ(少年法3条2項)、児童相談所先議とされていることから明らかなとおり、触法少年は「要保護児童」として位置づけられ、福祉的保護によって立ち直りを援助しようというのが法の趣旨である。

 すなわち、少年法と児童福祉法は、14歳未満の触法少年は情緒や自我の障害、未発達という問題を抱えており、それらを正しく再形成するためには司法的保護によるより福祉的保護による方が適切であるとの立場にたっているのである。
 これに対して「提案」は、刑事訴訟法上の警察権限をこの福祉的保護にも及ぼそうとするものであって、少年法と児童福祉法の整合的理解を欠くものと言うほかない。
(3)根拠のない触法事件の現状認識
 「提案」が

「最近は、少年事件についても否認事件が多くなってきており罪の意識を自覚しない少年が増えているとされる。少年法の目的である『性格の矯正』につながる自己責任を自覚させるためにも、十分な捜査あるいは捜査に準じた調査により証拠を確保し、事実を十分解明することが罪を認識させることにつながる」
と述べている点は、何らの科学的根拠に基づかない独自の見解であるというべきである。
 まず、最近の少年事件について、否認事件が多くなっているという前提が何ら統計学的な数字に裏付けられていない。特に、14歳未満の少年が事件を否認する例がどれほどあるというのか不明である。
 仮に14歳未満の少年が事件を否認したとしても、そもそも触法行為をしていないのであれば否認するのは当然である。また実際には触法行為をしているのに否認するという例を考えても、そこから直ちに「罪の意識を自覚しない少年が増えている」という結論に至ることは短絡的である。

罪の意識を感じるからこそ、これから自分がどのようになるのか分からずに、怖くなって否認するということも、幼い少年の心理として大いにあり得るからである。
にもかかわらず、警察が強力な捜査権限を行使して証拠を収集し、それを少年に突きつけた上で事実を認めるよう迫ることは自白の強要に繋がりかねない。
少年が「罪の意識を自覚」し更生に向けて歩みだすためには、まさに福祉的な手続きの中で、弁護士・調査官・児童福祉司等の適切な援助により少年が抱いている不安を払拭しつつ、自ら話ができるように導くことこそが必要なのである。
ことに過去に虐待を受けるなど、大人に対する恐怖心を抱いている14歳未満の少年に対し、福祉機関とは異なる目的や視点、技法をもつ捜査機関が取調べを行うということは、少年の更生に対してマイナスの方向に働く危険性が高いと言わなければならない。
(4)必要性に欠ける警察による独自の捜査
 「提案」自体認めているとおり、現行法上も、家庭裁判所が審判のために必要があると判断した場合には、裁判所は少年法15条16条に基づき警察官等に必要な援助をさせることができるのであるから、この規定により、客観証拠を集めることができる。したがって、審判における事実認定という目的は、現行法の規定でも十分に達せられるのであって、これを超え、警察に独自の捜査権限を付与すべきではない。
 

5.少年院入所年齢の引き下げの問題性
 「提案」は、14歳未満の非行少年(触法少年)であっても重大な犯罪をおかした場合には少年院での処遇が可能となるよう少年院収容年齢の引き下げを発案している。
 しかし、この発案には、次のような問題がある。
(1)少年法と児童福祉法の整合的理解の欠如
 先に述べたとおり、少年法と児童福祉法は、14歳という年齢によって対応を分け、14歳未満の触法少年に対しては、司法的保護ではなく福祉的保護によって立ち直りをはかろうとしているのであり、「提案」が、「たまたま年齢が14歳未満であったというだけで教育効果の高い少年院での処遇を否定すべきでない」と述べている点は、両法の整合的理解をまったく欠く見解と言うべきである。
(2)児童自立支援施設の処遇に対する無理解
 「提案」は「施設の機能自体は、生活指導であり少年院と大差はない」と述べているが、これは児童自立支援施設における処遇の実情と特徴についての無理解を示すものである。
 少年院は法務省管轄の矯正施設として拘禁性を強く有する。これに対して、児童自立支援施設は厚生労働省の管轄にあり、心身の発達の問題ゆえに非行のある触法少年に対して家庭的な暖かさをもって生活指導・学習指導・作業指導を行い、少年の立ち直りを援助する施設である。
 児童自立支援施設において、触法少年は外部との接触については制限されているが、施設内の学校で学び、クラブ活動を行い、食事も世間一般の食材で作られた食事を摂るなど、少年院とは違った家庭的雰囲気の中での福祉的な処遇を受けている。児童自立支援施設での教育は、少年院の矯正教育とは質的な違いがあるのである。
(3)必要性に欠ける年齢引き下げ
 現状において、「提案」のように唐突に少年院収容年齢引き下げを検討しなければならない事情は何ら存在しない。
 「提案」は、長崎幼児誘拐殺人事件を念頭に置いてかかる提案をしていると考えられる。しかしながら、過去にも14歳未満の少年による殺人事件が発生しているが、現行法の趣旨にそった対応がなされ、取り立てて制度を変える必要性などは問題にされていない。今回の長崎幼児誘拐殺人事件についても、家庭裁判所は児童自立支援施設における処遇を決定し、少なくとも現時点で直ちにこの処遇に支障があるかのような問題提起はされていないのであるから、処遇の推移を冷静に見守るべきである。その上で、仮に処遇のための専門職員の補充等、何らかの改善が必要ならば、児童自立支援施設そのものの改善をはかるべきである。このような事実の検証もなしに少年院収容年齢を引き下げる発案をするのは本末転倒であり、短絡的と言わざるを得ない。
 

6.「関係者の連携したサポート体制の構築」の問題性
 「提案」では、少年非行に対しては、学校・警察・福祉・補導員・保護司・家裁・民間ボランティアなどが連携し、チームとなって対応していくこと、特に少年に対する情報の共有が必要であるとされている。情報交換による連携から対処行動への連携が問題行動の早期発見・対応を可能にするとしたうえで、必要な法制化を求めている。
 しかし第1に、少年に関する情報の共有を、少年非行の防止や社会防衛のために安易に認めることは、少年のプライバシーを侵害する危険がある。警察が犯罪の鎮圧、抑止という責務上得た情報と、教育福祉的使命を果たす過程で得た学校等の有する情報とは、
情報の当事者の同意や予測が異なっており、情報当事者の意思を無視して交換することは許されない。こうした当事者の情報は、公務員の守秘義務によって保護されているものである。とりわけ、こうした秘密保護のもとで情報の当事者は教育福祉機関に対して安心して情報を提供し、当該機関はその機能を十全に果たしうるという関係がある。警察と学校等との間で安易な情報交換が行われるならば、学校等の教育福祉機関は当事者との信頼関係を失い、その機能を果たし得なくなることは必至である。非行防止のために第一義的に大切なことは、子どもに対して十分な教育福祉的な関与がなされることであるが、「提案」のような安易な情報交換は、この第一義的な役割を担う機関の機能を低下させるものであり、本末転倒である。
 また、関連各機関が収集した情報を特定の少年について名寄せするように集め、各機関が共有するということは、社会が特定少年に対して問題少年としてのレッテルを貼ることになりかねず、少年の更生にとって重要な自尊心を傷つけ、社会の中での居場所を奪うことになる。少年の自尊心や居場所の重要性については「報告書」にも指摘されているとおりである。
 第2に、「提案」が「対処行動への連携」とそのための法整備について発案している点については、慎重な検討が必要である。 

 「報告書」は、少年犯罪への対応の方向性について、「各年齢期を通じた総合的な取組」が必要であるとして次のように述べる。すなわち、
「補導活動や少年事件捜査の体制、犯罪を犯した少年の処遇体制を充実させていくことが重要である。特に、少年の多くが思春期を過ぎると犯罪を犯さなくなる傾向があることや、凶悪犯の割合がそれほど高くないことを考え合わせると、犯罪を抑止的に防止することと併せて、事件を起こした少年への適切な配慮や保護により円滑に社会に適応させることが、将来の成人の犯罪発生率を抑制する観点からも重要である」として、刑事司法的対策について述べた後に次のように指摘する。「より根源的な対応としては、すべての少年がそもそも犯罪を志向しないよう最大限努力することが重要である。(中略)知識としてではなく行動に反映されるものとなるよう規範を内在化させるための支援が必要である。年齢段階に応じた多くの人とのふれあい、集団遊び・集団活動、社会に参画し様々な試行錯誤をすることなどを伴うことによって、規範意識や行動をコントロールする力を強化することができる。(中略)少年が、人間への基本的信頼や愛情を持ち、さらには自尊感情を持てるような心理基盤を得られるようにすることが必要である。また、犯罪の予防や更生のためには、若者の内面に対応するだけでは不十分であり、雇用環境等の改善を図り少年が将来に対して明るい展望を持てるようにすることが必要である。(中略)思春期から青年期にかけては、帰属意識を持てる場や自分らしく過ごせる場があることが、あふれるエネルギーを前向きにいかすためには重要である。家庭、学校、職場だけでなく、そこに自分の居場所を見いだせない者も含め少年たちにとって、物理的にも心理的にも居場所となる場所づくり・空間づくりを支援していくことが必要である」
そして、このような対応策を実施するためには「多様な特性や事情を抱える少年や家庭に対して、適切な時期に適切な支援が行われるよう、公的なものだけでなく民間協力者等も含めた場や人材を充実させ、多様な支援の機会が提供されるようにすることが必要である」と指摘している。
 「報告書」の上記指摘は少年非行対策として極めて重要な視点を提供している。警察と学校等の教育機関、福祉機関とは行動規範や指導理念が異なる。警察は犯罪の予防と鎮圧を通じて社会秩序を維持することを責務とし対象者に対する不信が行動規範となる。

 これに対して、学校等教育機関の指導理念は、子どもの成長する力への信頼であり、その違いは大きく正反対と言っても過言ではない。それぞれの機関がその役割にしたがい少年に対して適切かつ多様に関わることが重要なのである。
 相反する行動規範、指導理念を有する機関が安易に情報の共有を前提とした、対処行動の連携を行うということは、少年を監視する社会を作り出す危険があり、少年非行対策としては逆効果である。
 監視社会の中では子どもは豊かに育たない。学校内で発生した特定の暴力事件等について、警察の関与が必要とされる場合のあることを否定するものではないが、「提案」のような安易な連携については慎重な検討が必要である。
 

7.まとめ
 以上述べたとおり、「提案」は、実証的根拠や整合的な法の理解に欠け、特定の少年重大事件を念頭に安易にこれを一般化し、短絡的に制度の変更を発案しようとするものであるから、「大綱」に盛り込むような取り扱いをすべきでない。
以 上 




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